大絶賛の子ども向けアニメで描かれる
本当に怖い差別の仕組み

 本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

 今年前半にヒットしたディズニーアニメーション『ズートピア』のDVD・ブルーレイが先週、日本国内で販売が始まった。英語版はすでに販売されており、マレーシア在住の筆者は1ヵ月ほど前に(子どもにせがまれて)購入し、何度か観た。

ディズニー映画「ズートピア」が暴く3つの見えない差別「差別は悪いことである」との「常識」が共有されていても、人間の心は「差別の源泉」とでも呼ぶべきものを隠し持っているのではないか。「ズートピア」は、リアリティあふれる人間のそんな“習性”をあぶり出している秀作だ

 この映画が「映画として」非常にクオリティが高いのは、すでに多くのサイトや雑誌で紹介されている通りだ。

 スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが宮崎吾郎氏とともに観に行き、そのあまりの素晴らしさに、そのまますぐに宮崎駿氏に会いに行って「凄いもの観た」と報告したり、全米のディズニーアニメーション興行記録(公開直後分)を塗り替えたりといった事実だけでなく、米国最大の映画批評サイト「ロッテントマト」で、肯定的レビューが98%と、幅広い層から「絶賛」されていることからも、この映画のクオリティの高さがうかがえる。

 これほど絶賛されるのは、子どもも楽しめるディズニーの高いエンターテイメント性を保ちつつ、非常にユニークな設定で現代(特にアメリカの)社会の持つ社会問題を提起しているからだろう。

 動物の毛並みを細部にわたって再現できる「iGroom」という最新CG技術、親しみやすく魅力的な「社会のために尽くす」キャラクター、話題づくりに事欠かない小ネタやギャグの数々、アメリカ社会への皮肉など、評価すべき見せ場は多い。それは先日の記事(ディズニー映画を凌駕!ジョブズが作ったピクサーの「チーム力」)で紹介した、ジョン・ラセターがディズニーに導入した「ピクサー方式の製作体制」が、ますます効果を発揮したことの現れだと考える。

 主要な脚本家だけで7人おり、その中にはこの作品の監督を務めたバイロン・ハワード(監督代表作は「塔の上のラプンツェル」)とリッチ・ムーア(同「シュガーラッシュ」)のほか、「アナと雪の女王」の監督であるジェニファー・リーも含まれている。この映画の成功とクオリティを見れば、集団でストーリーを練り上げ、分担して細部を作り上げるラセターのやり方が、とてつもないシナジー効果を発揮していることがわかるだろう。

 上記に紹介した「見どころ」については、すでに多くの映画批評サイトや雑誌で述べられている。一方で、筆者が社会心理学の専門家として注目したいのは、この一見ファミリー向けに作られた映画の持つ「実は重々しいテーマ」と、ストーリーに組み込まれた「本当に怖い差別のしくみ」の方だ。そしてこれはビジネス組織で日々暮らしている我々にも関係する。以下ネタバレにはならないように紹介する。