地方に住み、生活保護を受給している障害者たちは、生活保護受給者の中でも最も立場の弱い人々である。この人々の支援者たちから見て、生活保護とはどのような存在なのだろうか? どのように運用されることが望ましいのだろうか? そもそも、障害者にとっての「自立」とは何だろうか? 

今回は、健常者中心の社会からは見えづらい生活保護の意義を、障害者の支援者たちを通じて明らかにしたい。

最大の問題は、
生活保護から脱却する道筋が見えないこと

健常者の5倍に上る障害者の生活保護受給率<br />困窮する彼ら・彼女らを手助けする支援者たちの本音根本あや子さん(63歳)。特定NPO法人「サンネット青森」理事(代表)。青森市生まれ。都会に憧れて東京の大学に進学し、横浜市役所の福祉部門に18年勤務した後、青森にUターン。1999年、市民団体「サンネット」を設立し、精神障害者のためのオープンスペースを開所。現在の「サンネット青森」へと発展させた。
Photo by Yoshiko Miwa

「生活保護は、必要な時に受けられて、必要なくなったら出られるというふうに、行き来ができるのがいいなあ、と思ってるんですよ」

 こう語るのは、根本あや子さん(63歳)。青森県青森市で、精神障害者の居場所であり作業所でもある「サンネット青森」を運営している(前回参照)。

「サンネット青森」の利用者である精神障害者の相当数は、生活保護を受給している。負傷や病気のために働けない傷病者と異なり、障害者は基本的に、一生にわたって障害者のままだ。障害が認定されて障害者手帳が交付されるための条件の1つは、「症状の固定」である。治癒の見込みがある間は、原則として、障害者手帳は交付されない。では、障害者たちは、どのようにして生活保護から「出られる」のだろうか?

「生活保護から脱出するというモデルが、青森ではなかなか見えないんです。特に、精神障害があって生活保護を受けた場合に、『そこから抜けてもやっていける』という道筋が見えません」

健常者の5倍に上る障害者の生活保護受給率<br />困窮する彼ら・彼女らを手助けする支援者たちの本音青森市内の貸し店舗やオフィスビルは、空室率がかなり高い。不況の影響が伺える。
Photo by Yoshiko Miwa

 2011年、青森県の完全失業率は、6.1%であった。全国平均の4.6%に比べると、数字だけでも求職の困難さは明確だ。2010年(注1)、青森県の生活保護率は、2.08%。同年の全国平均1.52%に比べると、やはり、かなり高い。

 また青森県は、最低賃金が生活保護水準以下となっている自治体の1つでもある。就労の機会が少ない上に、十分な収入を得られる機会も少ない。生活保護利用者が増えるのは、必然といえば必然である。

 では、障害者の経済状況はは、現在どうなのだろうか? 障害者ゆえに、健常者より恵まれている可能性があるのだろうか? それとも、より劣悪なのだろうか?

(注1)
その年の生活保護に関する公式統計は、翌年の秋ごろに公表される。2012年8月30日現在、2011年の統計結果は、まだ公表されていない。