周辺国の変化についていけず
硬直化する日本のシステム
多くの面で優れているはずと言われる日本のシステムだが、いま明らかに硬直化が進んでいる。人口が増加し、経済が右肩上がりで伸びているかぎりは、変化の糊シロも大きい。旧来の制度をある程度残しておいても、新しい分野がどんどん伸びていく。そうした活力ある部分を多くの国民が観察できるので、より好ましい制度にシフトしていくことができるのだ。
しかし、人口の減少が始まり、日本経済の硬直化が始まった。日本が変わったというよりも、周りの国が大きく変化したのに、日本がその変化についていけないのだ。アジアのどこに行っても、「日本はどうしてしまったのか」という質問を受けることが多い。日本びいきの人であるほど、日本のこの体たらくを残念に思っているようだ。
前回とりあげた農業がその典型だ。いま議論すべきは、農業を残すのか潰すのかというような時代錯誤の論点ではない。農業は残すに決まっている。重要なのは、将来が見えない今の制度にこだわって衰退を受け入れるのか、それともこの機会に大胆な改革を試みて、若者が農業の未来に期待を持てるような姿に変えていくのかという問題なのだ。
農業だけが例外というわけではない。医療や介護でも、教育でも、金融システムでも、制度を硬直化させてはいけない。社会を海外に開いていくことで日本の制度をより好ましい形に変えていく──そうした気概が求められているのだ。TPP(環太平洋経済連携協定)の論議も、そうした国の形に関わる大きな議論でなくてはいけない。
世界に誇る医療制度も
足下では崩壊が起きている
日本の医療制度は素晴らしい──そう医療関係者は主張する。先進国の中では最も低い医療費で抑えている。国民の平均寿命は世界最長あるいはそれに近い水準である。国民皆保険でフリーアクセスが確保されており、国民はいつでもどの病院にでも行ける。