ピカソの秘密
【第1回】 2013年3月11日 山口揚平 [ブルーマーリンパートナーズ 代表取締役]

経済的にも大成功した
ピカソに倣う「お金」の本質

生前、ピカソは言ったそうだ。「私は、対象を見えるようにではなく、私が見たままに描くのだ」。僕たちは、お金の正体を知らなければならない。そうでなければ、僕たちは自分の人生を自由に創造し、幸せに暮らすことがますます難しくなるだろう。

 ふたりの天才画家、ゴッホとピカソの偉大な名声なら、誰もが知っているだろう。だが、ふたりの生前の境遇には、天と地ほどの差があった。

 ゴッホの人生であまりに有名なのは、多くの職を転々としながら苦労して画家となり、ゴーギャンとの共同生活が破たんした後、みずからの耳を切り落としてしまったエピソードであろう。ゴッホは、弟テオの理解と援助のもとで創作活動を続けることができたが、その2000点にものぼる作品のうち、生前に売れた絵はわずか1点のみだった。

 ピカソは違った。その卓越した画才もさることながら、私人としても成功した。美術教師だった父親のもとで7歳から熱心な教育を受けたピカソは、幼少期から天才の片鱗を見せつけた。教えていた父みずからが「もう息子にはかなわない」と感じ、二度と絵筆を握ることがなかったというエピソードは、その才能の非凡さを物語っている。

 91歳でその生涯を閉じたピカソが、手元に遺した作品は7万点を数えた。それに、数ヵ所の住居や、複数のシャトー、莫大な現金等々を加えると、ピカソの遺産の評価額は、日本円にして約7500億円にのぼったという。美術史上、ピカソほど生前に経済的な成功に恵まれた画家、つまり「儲かった」画家はいない(詳しくは西岡文彦『ピカソは本当に偉いのか?』新潮社、2012年参照)。

ピカソのセンスは芸術以外でも超一級だった

 では、両者の命運を分けたのはなんだったのか?

 それは、ピカソのほうが「お金とは何か?」に興味を持ち、深く理解していた点ではなかったか。というのも、ピカソがお金の本質を見抜く類まれなセンスを持っていたことが窺える逸話が、数多く残されているのである。

 たとえば、こんなエピソードがある。

★ピカソはなぜ小切手を使ったのか

 生前のピカソは、日常生活の少額の支払いであっても、好んで小切手を使ったという。
 なぜか?実は、次のようなカラクリがあったのだ。
 まずピカソは、当時から有名であった。その彼が買い物の際に小切手を使えば、それをもらった商店主は、小切手をどのように扱うだろうか?ピカソは次のように考えた。商店主は、小切手を銀行に持ち込んで現金に換えてしまうよりも、ピカソの直筆サイン入りの作品として部屋に飾るなり、大事にタンスにしまっておくだろう。そうなれば、小切手は換金されないため、ピカソは現金を支払うことなく、実質的にタダで買い物を済ませることができる。
 ピカソは、自分の名声をいかに上げるか、のみならず、それをどうやってより多くのお金に換えるか、という点についても熟知していたのだろう。これは現代の金融でいえば、信用創造、“キャピタライズ”の考え方である。

★ピカソはなぜ、ワインのラベルをタダで描いたのか

 シャトー=ムートン=ロートシルトというフランス・ボルドー地方にある有名シャトーのワインがある。この1本5万円は下らない高級ワインの1973年モノのラベルは、ピカソがデザインしている。そして、その対価は、お金でなくワインで支払われた。ピカソの描いたラベルの評判が高ければ高いほど、ワインの価値は高まり高値がつく。ピカソがそのワインをもらえば、自分で飲むにしろ売るにしろ、価値が高いほうがいいに決まっている。双方に利益のある話である。
 ちなみに、シャトー名のロートシルトは、英語の発音ではロスチャイルド。言わずと知れた、ユダヤ金融の頂点に君臨する一族である。ピカソだけでなく、その年ごとに異なる有名アーティストにラベルをデザインしてもらうアイデアを思いついたシャトーのオーナー、フィリップ・ド・ロッチルド男爵(ロッチルドは、ロスチャイルドのフランス語読み)もまた、お金の本質を知っていた。
 彼らは解っていたのだ。信頼関係の土台があれば、お金を介さなくても双方の価値を交換することができる。むしろ、お金という数値では、表現しきれない生の価値を伝えられる。経済は必ずしもお金という媒介を必要とはしない。お金の達人は、究極的には、お金を使う必要がないのだ。

 生前、ピカソは言ったそうだ。
「私は、対象を見えるようにではなく、私が見たままに描くのだ」。
 僕たちは、お金の正体を知らなければならない。そうでなければ、僕たちは自分の人生を自由に創造し、幸せに暮らすことがますます難しくなるだろう。

お金の有無と幸福であることとはリンクしない

 お気づきのように、僕が本当に伝えたいのは、ピカソとゴッホの人生ではない。「お金」の話である。
 ピカソもゴッホも素晴らしい画家だ。ふたりとも愛に満ちたとても幸福な人生を送った。お金のあるなしは、その人が幸福であることと直接的に関係ない。幸福とは、期待と実体が一致した状態だ。「心を満たすお金」だけでなく「心をコントロールする意思」との両方がそろって、初めて人は幸せになれる。

 だからこそ僕は、お金という一般的には得体の知れない存在を、若い時から俯瞰して見る力を養うべきだと思う。そうすることで、何かを産み出す「創造の武器」としてお金を使えるようになるからだ。

 念のため断っておくと、本連載はお金持ちを目指す内容ではない。それでもお金の本質を理解し、来るべき未来に備えをすれば、きっと経済的にも社会的にも自由に暮らすことができるようになるだろう。

 まずは次回、お金とは何か?について考えていこう。

(次回は3月12日更新予定です。)


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