「行動経済学」に「神経経済学」と、ここ数年、続々と「新しい経済学」の研究が芽生えています。これらの動きを生み出している、経済学や心理学、神経科学、さらには物理学といった研究領域が交わる「知の最前線」についてレポートします。
今回、話を伺ったのは、大阪大学 社会経済研究所教授・付属行動経済学研究センター長である大竹文雄氏。労働経済学、行動経済学といった分野で実績を残し、また最近ではNHK「オイコノミア」への出演や日本科学未来館の企画展「波瀾万丈!おかね道」の総合監修などと、幅広く活躍している経済学者でもあります。
第1回は、日本科学未来館と経済学という異質の組み合わせの企画展の監修をなぜ引き受けたのか、というお話を皮切りに、「経済学はなぜ嫌われるのか」「経済学者は利己的なのか」、伺いました。経済学者の印象が変わるインタビュー第1回、どうぞお楽しみください!(聞き手:萱原正嗣)

「経済学」は、なぜ嫌われるのか?

――「おかね道」とは、何ともインパクトのあるタイトルです。先生は、このタイトルを最初にご覧になったとき、「経済学者」としてどんな印象を持たれましたか?

大竹 「経済学者」の発想からかけ離れていて、衝撃でした。タイトルだけではありません。ポスターやウェブサイトのデザインも含めて、とにかくインパクトが強烈でした。ポスターについては、初めて見た瞬間「コテコテの大阪商人」を思い浮かべたほどです。

なぜ、「経済学者」は嫌われるのか?<br />――実は「利他的」な経済学者が伝えたい、<br />  経済学の「2つの醍醐味」大竹文雄(おおたけ・ふみお)
大阪大学社会経済研究所教授・付属行動経済学研究センター長
1961年生まれ。京都大学経済学部卒、大阪大学大学院修了。経済学博士。専門は行動経済学、労働経済学。2008年日本学士院賞受賞。主な著書に、サントリー学芸賞受賞『日本の不平等 格差社会の幻想と未来』(日本経済新聞社)、『競争と公平感』(中公新書)など。最新刊に『脳の中の経済学』(共著・ディスカバー携書)。

 でも、ある意味では、世間の人が「経済学」に対して抱いているイメージをうまく表現しているな、とも思いました。

 私自身もよく経験しているのですが、初対面の人に「経済学者です」と自己紹介したときの、相手の反応はたいてい決まっていて、2つに集約されます。

 ひとつは、「これから景気はどうなりますか?」とか、「これから儲かる株は何でしょうか?」といったことを尋ねてくる人。「経済学」というのは、景気の予測をしたり、お金の儲け方を考えたりすることだと、多くの人が思っているんですね。

 もうひとつは、面と向かってはあまり言われないまでも、「経済学」という言葉にネガティブな印象を抱く人。こういった人はかなり多い。「数字だけしか信じない冷酷な世界だ」とか、「利己的で計算高い連中ばかりが集まっている」とか、そういうイメージですね。

 経済学者自身が、そういう状況を揶揄して、「陰鬱な科学(dismal science)」だと表現することもあるくらいです。

「私自身も、「経済学」を誤解していた」

――そのような「経済学」に対する負のイメージを払拭するのに、かなり苦労されたと伺いました。

大竹 今回の企画展の準備を進めている段階でも、似たような反応に何度も遭遇しました。なかでも典型的な反応を示されたのが、本展を開催している「日本科学未来館」の館長の毛利衛さんです。