1918年11月の第1次大戦敗戦からドイツ革命、そしてオーストリア革命による両帝国の共和制への移行。経済政策に関与するシュンペーターの運命。20世紀前半の世界史を決定づけた激流に踏み込む前に、今回はシュンペーターのイノベーション論を再確認しておきたい。

いまの日本に求められる
“内需”を拡大するイノベーション

 2009年世界経済危機下、各国は大幅な需要の減少に見舞われ、日本企業も対応に苦しんでいる。世界のどの国よりも、日本の実質GDP(国内総生産)成長率のマイナス幅は大きいのである(※注1)。

 それは、日本の輸出依存型の需要構成が崩壊しつつあるからだ。売る相手が買えない状況だからである。

 すると、日本経済の復興は内需拡大しかありえない。内需拡大は何十年も言われている日本経済の大きな課題だが、何十年も解消していない宿題である。

 あらためて考えてみよう。シュンペーターが20世紀初頭に提示したヴィジョンは正しいのである。経済成長は企業家のイノベーションによって推進される。しかし、企業家が群生し、イノベーションが枯渇すると低迷する。そして再び企業家によるイノベーションが生み出され、経済は循環していくことになる。つまり、内需を拡大するイノベーションが必要なのである。

 シュンペーターは経済理論を構築したというより、長期的なヴィジョンを提示したのである。現代の経営者はケインズよりシュンペーターを読む必要がある(もちろん、政治家や官僚はケインズを読み直そう)。

 企業はお札を刷る政府とは違う。企業はイノベーションによる成長を図るしかないからだ。短期的な政策の勉強はケインズで、長期的なヴィジョンづくりはシュンペーターを読もう(※注2)。

シュンペーターが定義した
5つのイノベーション

 シュンペーターによるイノベーションの5分類について、第28回で詳しく書いたが、概略をもう一度述べておく(※注3)。

1)新しい生産物または生産物の新しい品質の創出と実現
2)新しい生産方法の導入
3)産業の新しい組織の創出
4)新しい販売市場の開拓
5)新しい買い付け先の開拓

 以上が簡略にまとめた5分類である。次に原文(翻訳)を引用する(※注4)。

1)新しい財貨すなわち消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産。

2)新しい生産方法、すなわち当該産業部門において実際上未知な生産方法の導入。これはけっして科学的に新しい発見に基づく必要はなく、また商品の商業的取扱いに関する新しい方法をも含んでいる。

3)新しい販路の開拓、すなわち当該国の当該産業部門が従来参加していなかった市場の開拓。ただしこの市場が既存のものであるかどうかは問わない。