前回に引き続き、公的年金財政検証の結果を、厚生年金を中心に検討しよう。

 今回の2014年財政検証における収支見通しは、09年財政検証に比べて好転している。

 しかし、その原因は、加入者について楽観的な見通しが追加されたことによるものだ。こうした楽観的見通しを排除すると、年金財政は破綻する。

 また、共済年金が統合されることも、収支見通し好転に寄与している。しかし、統合は、本当の意味での年金改革ではなく、真の問題点を覆い隠すものだ。

加入者数の楽観的見通しで収支が改善

前回述べたように、2009年の財政検証では、賃金に関する現実的な見通しを置けば、2030年度頃に厚生年金の積立金が枯渇する。ところが、今回の財政検証では、最も悲観的な場合(ケースH)でも、厚生年金には積立金が残り、年金財政は破綻しないのである(ただし、国民年金は、完全賦課に移行する)。

 09年財政検証で示された厚生年金の問題は、今後30年の間に、保険料納付者が8割に減り、他方で受給者が2割増えるということだ。だから、虚心坦懐に考えれば、いつかは破綻するはずなのである。

 この基本的条件は、いまでも変わらない。それにもかかわらず、なぜ破綻が回避されるのか? それは、いくつかの非現実的な仮定によって、問題が覆い隠されているからである。とくに大きなものとして、つぎの2つがある。

 第1に、マクロ変数の想定が楽観的だ。最も楽観的なケースAでは、実質賃金上昇率が2.3%とされている。最近では実質賃金上昇率がマイナスであることと比較すると、これはありえない姿だ。また、最も悲観的なケースHでも、実質成長率がマイナスであるにもかかわらず、実質賃金の伸び率がプラスだ。これもありえない姿である。

 第2の理由は、加入者の増加が想定されていることだ。これは、2つの要因による。

 第1は、女性や高齢者の労働参加が増加するとの想定だ(ケースA~E)。しかし、これは、よほどの政策努力がないと実現できないだろう。