意識していなくても、つい触ってしまうiPhone。気がつけば、新着情報や「友達」の投稿が気になって立ち上げてしまうツイッターフェイスブック。なぜ、私たちはただのガジェット、そしてコミュニケーションツールに、こんなにも簡単に「病みつき」になっているのか?
約15年間、自らもアルコール依存に陥っていた記者が、綿密な取材と実体験をもとに著した『依存症ビジネス』は、テクノロジーとビジネスの共犯関係、さらに社会が依存症を生み出すカラクリを暴いた。こうした現象は、「危険ドラッグ」にまつわるニュースが日常に溢れるようになった日本人にとっても、決して無関係ではない。第2回となる今回は、我々の身近にも存在し、時間を浪費させ、人間関係を「モノ化」するiPhoneとSNSが、いかに病みつきにさせるデザインとなっているのか、その実態に迫る。

iPhone依存症
――アップルが実現した「病みつき」デザイン

iPhone。この光沢を放つガジェットに対する私たちの恋愛感情を「依存症」と呼ぶのは、ちょっと言いすぎではなかろうか?

 だがスタンフォード大学の研究者たちによると、そうとも言いきれないようだ。というのは、2010年に200人の学生について調査を行ったところ、回答者の44パーセントまでもが、非常に、あるいは完璧に、スマートフォン中毒に陥っていると答えたからだ。回答者の9パーセントは、子どもやペットをあやすように、愛情を込めてiPhoneをそっと叩くことがあると言い、また自分のiPodがPhoneに「嫉妬している」と感じたことがある、と答えた学生も8パーセントに上った。アメリカのトップ大学の学生が自分のiPhoneについて語る言葉にしては、冗談にしても、いささか奇妙だ。

 この調査はまた、学生たちのアイデンティティーや社会的なつながりの一部に、iPhoneが完全に組み込まれている実態も明らかにすることになった。iPhoneはもはや、大勢の人と瞬時につながることを可能にするだけのツールではない。独自のアイデンティティーまで手にしている――iPhoneは、愛情を込めて触れられ、保護され、慈しまれる対象なのだ

 こうした状況が生じる理由は、もしかしたら、デバイスの設計理念にあるのかもしれない。スマートフォンを使う際には、ほとんど強迫性障害かと思えるような反復的儀式を強いられる。iPhoneの初期設定から、毎週の同期と夜ごとの充電……。あなたがこの電話機と築く関係は、すでにお膳立てされているのだ。そしてiPhoneのバッテリーは1日たっぷりもつようにはできていないため――とりわけ、何時間もいじりつづけたり、ゲームをしたりしているときには――“ピットストップ”での充電が日課になる。喫茶店で電源を探すiPhoneユーザーの姿は、もはやおなじみの光景だろう。カフェインというフィックスを手にすると同時に、電話機にも燃料を補給しようというわけである。

 前述したスタンフォード大学の調査で、回答者の4分の1までが、iPhoneは「危険なほど魅力的だ」と答えた事実は注目に値する。なぜなら、最初から、そう感じるように仕組まれているからだ。こういったデバイスのデザインは、すみずみまで計算しつくされている。アップルのユーザーに、自分のガジェットを擬人化してしまうというきまり悪い傾向が見られるとすれば、それは、アップルが人間の心と体における可能性を他のどの企業よりも徹底的に探っているからにほかならない。

 たとえば、アップルのMacBookシリーズの魅力的な特徴の1つに、状態表示ランプがある。パソコンがスリープ状態になると、このランプが穏やかに点滅するのだ。初期のレビュアーは、このランプが持つ癒しの効果を褒めそやしたが、それを眺めることが、なぜそれほど癒しの感覚をもたらしてくれるのかについては突きとめられなかった。が、そののちアップルが「呼吸のリズムを模した」スリープ・モード表示ランプの特許を申請し、「心理的に魅力のある」ランプは、あらかじめ意図されたものであったことが判明した。