昨年7月1日、安倍内閣は新しい安全保障法制の整備のための基本方針を閣議決定し、集団的自衛権の行使容認に踏み切った。今年はその実行に向けて法整備の行われる重要な年だ。

経済政策への注力を強調する安倍晋三首相だが、“本当にやりたいこと”は、憲法改正と安全保障の見直しであるとされる。その行方は、日本の在り方を大きく左右する可能性がある。だが、集団的自衛権の行使容認をはじめとして、安全保障の論点は必ずしも分かりやすいものではなく、国民の理解も十分ではない。そこで意見を異にする2人の専門家に論点と賛否を聞き、4回にわたって掲載する。第1回は、元防衛官僚・内閣官房副長官補の柳澤協二氏のインタビュー(上)をお送りする。柳澤氏は集団的自衛権の行使に反対の立場をとる論客である。

逆に日本人がテロに遭う危険が高まる

──昨年7月1日、安倍政権は、従来の憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を認めることなどを閣議決定しました。内容を読むと、集団的自衛権だけでなく、離島などでのいわゆるグレーゾーン事態(※1)への対処、そしてPKOなどの国際的平和協力活動に関することの3つが扱われていますが、一般の国民にはなかなか分かりにくいところもあります。これらはそれぞれ何を意味し、どのような論点があるのでしょうか。

【検証・安倍政権の安全保障政策(1)】<br />元防衛官僚が斬る集団的自衛権の“正体”やなぎさわ・きょうじ
1946年生まれ。東京大学法学部卒業後、防衛庁(現・防衛省)入庁。防衛審議官、運用局長、防衛庁長官官房長、防衛研究所所長などを経て、2004年~09年、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)。第一次安倍、福田、麻生政権で自衛隊イラク派遣などに関わる。著書に『亡国の安保政策』、『自分で考える集団的自衛権』、『検証 官邸のイラク戦争』など。

 従来は、武力行使の要件として、わが国に対する攻撃があるかないかということで分けていたものを、とにかくわが国に対する攻撃がなくても武力行使ができるようにした、という部分が集団的自衛権ですね。

 それは国連による武力行使にも使えるわけですが、もう一つ、PKOなどの際の自衛隊の武器使用の拡大という問題があります。今までは、自己防御のための武器使用を基本として、それから戦闘地域・非戦闘地域という概念を使って(自衛隊の派遣は非戦闘地域のみとして)、イラク戦争までは対応してきた。

 それを、いわゆる「駆け付け警護」(※2)で、他国の軍隊の警護も含めるという話になっている。

(※1)武力攻撃に至らない侵害。具体的には特に、尖閣諸島に対し漁民に偽装した武装勢力などが侵入するケースが問題となっている。

(※2)PKOなどで活動中の自衛隊が、他国軍やNGOなどの民間人が危険にさらされた場合に武器を使って守る行為。相手が国家に準ずる組織となる可能性があり、その場合憲法9条違反となるため、現在の憲法解釈では禁止している。閣議決定ではPKOで「『国家に準ずる組織』が敵対するものとして登場することは基本的にないと考えられる」としている。