職場の人間関係は、ポーカーのような心理戦!?

「あなたの悩みは何ですか?」と聞かれたら、読者諸兄は何と答えるだろうか? 「職場の人間関係」と答える人が少なくないのではないだろうか。

 リクルートホールディングスが2013年に発表した、アジア8ヵ国の20~39歳までの大卒以上の就労者を対象とした調査結果によると、「仕事をするうえで大切だと思うもの」の選択肢のうち、日本人の56%が「良好な職場の人間関係」を選んだそうだ。

同じ職場環境でキャリアアップできる人、できない人の「差」の正体

 他の7ヵ国ではだいたいどの国でも70%以上が「高い賃金・充実した福利厚生」を選んでいて、「良好な職場の人間関係」を選ぶ人はその半分にも満たない。裏返せば、それだけ現状の職場の人間関係が良好だと“思っていない”日本人が多いということになる。

 アメリカであれば、今いる会社で自分が正当に評価されていない、あるいは力を十分に発揮できていないと感じた時には、キャリアアップのために「転職」を選ぶ人が多いだろう。実際、アメリカ合衆国労働省の統計データをみると、アメリカのベビーブーム以降に生まれた世代が18歳から48歳の間に経験する仕事の数は、平均で11.7にも上るそうだ。

 日本の場合、最近は転職する人が増えたとはいえ、まだまだアメリカのような人材流動の環境が整っているわけではない。悩みを抱えたまま転職することもできず、今いる職場で悶々としている日本人も多いのではないか。

 本書の著者、ダン・ラスト氏は、企業向けのトレーニングを行うフロントライン・ラーニング社の創立者にして作家、講演家。働く人々のキャリアや生産性、モチベーションを高める方法を指導するワークショップや数々の講演で知られる人物だ。

 本書の原題は“Workplace Poker”。直訳すると「職場のポーカー」だ。つまり著者は、企業内でキャリアを形成していく過程をトランプのポーカーゲームに見立てている。

 突然の配置換えやリストラの動きを、周囲の関係者や経営陣の言動から先読みする。そしてその動きが自らのキャリアに与える影響を推しはかり、先回りをした動きをとる。そうした社内での駆け引きに長けることが、会社にとどまるにせよ、転職を考えるにせよ、その後のキャリア形成の「ゲーム」に勝利するのにとても重要というのが、本書の主張なのだ。

 著者は必ずしも転職を薦めているわけではない。むしろ、大きな成功を収める人は、自分に合う企業を見つけようとするのではなく、自分のキャリアにとって有益な企業文化に合わせて、自らのスタイルを柔軟に変化させられる人なのだそうだ。