私が、従業員数千人を抱える大手食品メーカーの「カリスマ経営者」と呼ばれる社長の秘書となったのは、気楽なOL生活を送って数年後のこと。自分でも信じられない思いがけない異動だった。
大学を卒業後、都内の大手食品メーカーに就職したのは10年前のことだ。語学力を生かせる職場を希望し、幸いにも国際貿易課に配属された。
仕事にもなれ、3年が過ぎようとしていたころ、突然の人事発令により秘書課に異動になった。長年、社長秘書を務めていた社員が退職することになり、急遽、補充人員として私が対象になったと言われた。売り上げ2000億円、従業員数3000人を超える大企業のトップの秘書に、この私が突然任命されることになろうとは……。
ところが、秘書課というのは、これがなかなか面白い。「事実は小説よりも奇なり」……さまざまな人間のさまざまなウラオモテを目の当たりにすることとなったのだ。
こちらの都合も考えず、とにかく「社長に会わせてくれ」の一点張りの強引な取引先の人たち。
秘書からなんとか情報を得ようと画策する人もいる。逆に秘書から社長に意見を通してもらおうとしつこく迫る人も……。
(いやあ、ホントにいろんな人がいるもんだなあ)
心からの正直な感想だった。
そんな中で、ボスの「なるほど、これはスゴイ!」と思えることや、心に深く響く出来事に感銘しているうちに、秘書の目から見て、尊敬できる人とそれと対照的な人が、結果として「できる人、できない人」につながっていったのだ。
社長秘書の立場から見た「できる人、できない人」の違い、そして「できるボスの条件」について、私が実際に体験した話を交えつつ、ご紹介していきたいと思う。
社長に取り入ろうとする
おかしく哀しい人たち
私が秘書課に配属されて間もなくのころ、かつての上司であるY部長が秘書課を訪れたことがあった。
貿易課時代、私はこのY部長にはよく泣かされた。Y部長は、指示する内容がコロコロ変わる。ときには自分の指示した内容すら覚えていなくて、取引先の前で恥をかかされたことも何度かあった。
難しい顔をして、もっともらしくデタラメを話す。「人間の集中力は45分が限界だ」なんて言って部下にどんどん仕事を丸投げ。自分はパソコンでゲームをする始末だ。“失敗は部下のせい。手柄は自分のもの”とするもっとも軽蔑する上司だった。ほかの社員からの評判も悪く、「あんな人にはなりたくないよね」とよくウワサされていた。