北京五輪も前夜だというのに、どうも盛り上がりに欠ける。旅行会社は日本発の観戦ツアー販売に腐心、中国国内でも上海などで競技チケットを手放す動きもある。五輪特需を狙った観光産業も、思惑違いに肝を冷やしている。
東京のある旅行代理店を訪れた。「オリンピック観戦ツアーのパンフレットはありますか」と聞くと、担当者はしばらく店頭のラックを見渡した後、ようやく2色刷りの「北京オリンピック観戦ツアー」のパンフレットを引っ張り出した。「問い合わせはお客さんが初めてなもんで…」と決まり悪そうにしていたのが印象的だった。
在庫負担が大きく
値引きに出る動きも
「3泊4日で35万~40万円前後」を相場とした日本発の観戦ツアー、7月第4週を迎えた今でも、いまだ申込客を待ち続けているパッケージツアーがある。体操、水泳、柔道などの人気種目には即日完売したものもあるが、4月の発売以来、「売れ行き好調、キャンセル待ちもあり」と報道されてきた北京五輪の観戦ツアーは販売に苦戦している。
ANAセールスは7月1日、ツアー代金の値引きに出た。「女子バレーボール準々決勝2試合観戦(3日間)」の29万8000円を19万8000円にするなど、一部コースを値下げしたのだ。
同社の動きはセンセーショナルに伝えられたが、御三家(ジェイティービー、近畿日本ツーリスト、日本旅行)にはこうした動きはない。ちなみに五輪観戦ツアーを取り扱えるのはJOC公式旅行代理店に指定された8社(ジェイティービー、近畿日本ツーリスト、日本旅行、阪急交通社、西武トラベル、ANAセールス、トップツアー、西鉄旅行)に限られている。
しかし、各社その在庫負担は大きい。ホテルの客室を通常の5倍以上の料金で、しかも「1棟買い」や「ワンフロア買い」で契約してしまったところもあるからだ。
現時点で3分の2が埋まっているジェイティービーは残りの販売について「完売に近づける努力をしたい」とするが、値引き以外の訴求方法をひねり出すのは容易ではない。
旅行会社によっては、競技チケットとホテルを抱き合わせしたパッケージツアーから競技チケットを切り離し、顧客のニーズに近いところで販売をかけようとするところもあれば、値引きはしないが「(キャンセルのあったものなどを)新商品として出す」という企業や法人向け営業にシフトする企業もある。
その一方で、「旅行会社は買い取った客室を1つでも売りたいはずだ。半額近いディスカウントですら応じてくれるかもしれない」と耳打ちする業界関係者も現れる。交渉の場は水面下に移った可能性もある。