華北最大の貿易港として栄える天津。その海河沿いに広がる商業地区に、中国・ダボス会議が開かれていたちょうど9月下旬にオープン一周年を迎えた巨大ショッピングモールがある。
その名も「ハイセンス・プラザ」。天津でも最大級の規模を誇る同モールには、グッチ、フェンディ、カルティエ、バーバリーなど世界に名だたるブランドが軒を連ねる。
筆者が訪れた9月29日は、一周年記念のセール期間中だったこともあって、ファッションショーや楽団演奏などのイベントがモール内のあちこちで催され、夜21時を過ぎても、おしゃれな服で着飾った老若男女の中国人買い物客でごった返していた。23時の閉店前には、街中にあるにもかかわらず、モールの沿道からいくつもの大玉の花火が打ち上げられ、その光景を見ようと停車したクルマで周辺の道路はいっぱいとなり、交通は一時麻痺した。筆者と一緒にモールを訪れたダボス会議の参加者の一人(米系金融機関幹部)は、「景気後退懸念はウソのようだ」と思わず漏らしたものだ。
中国経済は、表面上はまだ高成長を維持している。2008年7-9月期の実質国内総生産(GDP)成長率は前年同期比9%増と、昨年通年実績の11.9%に比べると大きく減速したが、依然として高い水準にとどまっている。なにより、年初来落ち込んでいた輸出も堅調さを取り戻し、9月には前年比21.5%の伸びを示した。貿易黒字も8月に続き、過去最高を更新している。
統計上、不動産価格は下落傾向にあるが、天津の街を見渡せば、今なおあちこちで大型のマンションや商業施設などの建設が続いている。「日米欧の駐在員客だけでなく、高額商品を求める中国人客も月を追うごとに増えているし、景気減速の実感はない」とハイセンス・プラザのブランド品売り場責任者も、米国の金融危機などどこ吹く風といった様子だった。
だが、この天津市を、中国全土の縮図と見るのは間違いだ。トヨタ自動車やP&G、ネスレ、サムスン、シェルなど各業界の勝ち組企業が拠点を構える同市は、雇用も安定しており、その分、消費も堅調で、全国平均を上回る成長率を確保している。ところが、はるか南に下った浙江省や福建省そして広東省では、米国発の金融危機がはっきりと実体経済に深刻な影響を与えはじめている。