古代中国史における著名な軍師の1人といわれる太公望の著作『六韜』には、「聖人マサニ動カントスレバ、必ズ愚色アリ」という戒めがあり、聖人が行動するときは、けっして利口そうな顔つきはしないものだというアドバイスが載せられている。
これは、「無知を装う」のと同じである。
相手の警戒を解くには、無知を装うだけでなく、少しばかり愚かそうに見えることも必要なのだ。
ぼんやりしている、トンチンカンなことを言う、文書には誤字がある、質問されてもすぐに応答しない、何もないところでつまずく、などの行動をとっているなら、相手は自然とあなたへの警戒心を解く。
「エリートだと聞いていたが、意外に抜けているところもあるんだな」
そう思わせることが大切である。少し間の抜けたところがあるからこそ、人間くささを感じさせることができ、親密感を高められるからだ。
人はおっちょこちょい
な人に気を許す
ある心理学の実験によると、完ぺきに見える人が、わざとコーヒーをこぼすなどの少々だらしないところを見せると、かえって好意を抱かせる効果があることがわかった。私たちは、おっちょこちょいな人に対して、親密感を覚えるのである。
19世紀に活躍した文人・政治家のチェスターフィールド卿の言葉に、
「だれよりも賢くあれ、だが、それを決して悟られるな」
というものがある。やはり、愚かなところを装ったほうがいいと述べているのだろう。つまりは、このテクニックは、洋の東西を問わずに効果的だといえよう。愚かなところをちょっとばかり演出すれば、だれでも気を許してくれて、親しみを感じてくれるのである。