【第63回】 2009年11月06日
鳩山首相が日本郵政人事で繰り返す
凡百の屁理屈に「脱官僚」の終焉を見た
このように、斎藤氏の起用を巡る鳩山総理の答弁はすべてまともな答えになっていません。答弁のレベルとしては失格点です。
坂氏の副社長起用は
絵に書いたような立派な“渡り”
更に言えば、報道もされないし国会でも質問もされていませんが、元財務官僚の坂氏の副社長への起用は、斎藤氏の起用以上に問題と言わざるを得ません。
坂氏は、2005年に一度退官して農林漁業金融公庫に天下りしてすぐ、内閣官房副長官補というポストに起用されました。そのポストを2008年に退任し、日本損害保険協会にまた天下りしていました。
つまり、上述のような民間で勤務した経歴はほとんどないのです。そういう人を副社長に任命するのは、絵に描いたような立派な“渡り”に他なりません。斎藤氏の起用については理屈にならない理屈を答弁していますが、坂氏についてはそうした屁理屈すらも作れないのではないでしょうか。
坂氏は経済財政諮問会議や規制改革、公務員制度改革とあらゆる改革的取り組みに反対してきた筋金入りの守旧派官僚の権化みたいな方ですから、日本郵政を国営企業に戻すには最適な人物なのでしょうが、それは民主党が掲げてきた“脱官僚”とは正反対の方向です。
ちなみに言えば、日本郵政の今回の人事を巡っては、こうした立派な“渡り”人事以外にも様々な問題があります。ある人物については、既に日本郵政内で内部告発が出始めているという噂も聞きました。
正直なところ、かなり絶望的な気分になってきます。郵政民営化を逆行させることは構いませんが、出来れば“正しい逆行”をしてほしいものです。今回の新しい陣容には、それすらも期待できません。業務内容についても同様です。
例えば、年金業務の郵便局への委託という話が出始めています。どうやら年金の窓口である社会保険事務所(全国300カ所)から郵便局に仕事を委託するという構想のようです。しかし、それならば、社会保険事務所は全廃すべきではないでしょうか。そうしないと、官の焼け太りに終わるだけです。国民の利便性を高めるという美辞麗句の下で官の無駄を放置するのは、欺瞞に他なりません。
元官僚依存の
“なんちゃって脱官僚”に成り下がった
最後に、日本郵政以外の人事を巡る答弁もひどいことを付け加えておきます。元厚労事務次官の江利川氏を人事院の総裁含みでの人事官に任用する人事案が提出されましたが、この人事について平野官房長官は、「(人事官には)公務員制度に熟知している方が望ましい」と答弁しています。なんと恥知らずな、と言わざるを得ません。
元公務員に公務員制度改革をやらせるというのは、裁判で被告に裁判官を任せるのと同じです。元事務次官に公務員制度改革をやらせたら、手ぬるい表面の改革だけで終わるのは火を見るより明らかです。この一事をもって、鳩山内閣は公務員制度改革を真面目にやる気がないんだということが明らかになったと思います。
以上をまとめると、鳩山総理は天下りや渡りを許容して、公務員制度改革も手ぬるく終わらせようとしているとしか思えません。“脱官僚”は終焉したと考えるべきでしょう。かつて私はこの連載で、「官僚依存の脱官僚とならないか心配だ」と述べましたが、今やたった1ヶ月で「元官僚依存のなんちゃって脱官僚」に成り下がった感じがします。
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著者プロフィール
- 岸 博幸
(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)
1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス非常勤取締役を兼任。
この連載について
メディアや文化などソフトパワーを総称する「クリエイティブ産業」なる新概念が注目を集めている。その正しい捉え方と実践法を経済政策の論客が説く。
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