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森達也 リアル共同幻想論

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例の北野誠さんの件なんですが

  念を押すけれど現段階では、実際に恫喝まがいの抗議がなかったとは、結局のところ断言できない。手紙のひとつくらいは書いたかもしれない。電話くらいはしたかもしれない。抗議文をテレビ局などに送ったと噂される音事協(日本音楽事業者協会)に対してバーニングはとても強い影響力を持っているから、間接的な圧力を加えたとの見方もできる。でも仮にそうであっても、それを受け取るほうが過剰な危機管理意識を持っていれば、その手紙が脅迫状に思えるかもしれない。ちょうどロケットがミサイルに変わるように。

  北野誠さんの件については、噂されているようなこと(これは書けない。あまりに低劣で書けるような内容じゃない)を彼が本当に公共の場で言ったのなら、やはり分別ある大人としてはどうかと思う。

  でもそれはそれとして、一切の活動の場をいきなり取り上げるというテレビ・メディアのこの対応は(彼がレギュラーを務めていたほとんどの番組では、彼が降板した理由や経緯については、見事にまったく触れようとしない。まるで彼が最初から存在していなかったかのように)、やっぱり絶対に納得できない。

  ただしバーニングサイドが、自分たちが恐れられていることをビジネスに利用しているという側面は、きっとあるはずだと僕は思う。交渉相手が抱く不安に乗じて、時には恫喝まがいのことをするときも、あったかもしれないし、あるかもしれない。それは否定できない(肯定もできないけれど)。

  でも多くのメディア関係者たちが抱くその恐怖には、恐怖の容量に見合うだけの本質はきっとない。どこかで水増しされている。誰かが水を足している。でも足した当人には、自分が足したという実感がない。無自覚なのだ。

  こうして不安や恐怖は、適度な湿度を与えられた隠花植物のように成長して、やがて巨大な幻想へと肥大する。水を足した人たちは、その幻影の葉の影で、多くの人が苦しんだり泣いたりしていることに気づかない。ただ騒ぐだけだ。危ないぞとか怖いぞとか。こうしてそれまでは「異例であるはずのこと」が、いつのまにか「当たり前のこと」になる。人はずっとそんな歴史を繰り返している。学ぶ気なんてないのだろうな。

  ここまで書いて、冒頭に記した違和感についてやっと思い当たった。草なぎ全裸逮捕事件にしても新型インフルについても、メディアは「これほど騒ぐことではないけれど」というエクスキューズを繰り返しながら騒いでいる。

  つまり「わかっちゃいるけどやめられない」。自覚のない段階は超えた。ならば本当にもう末期的。

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著者プロフィール

森達也
(テレビディレクター、映画監督、作家)

1956年生まれ。テレビディレクター、映画監督、作家。ドキュメンタリー 映画『A』『A2』で大きな評価を受ける。著書に『東京番外地』など多数。

この連載について

テレビディレクター、映画監督、作家として活躍中の森達也氏による社会派コラム。社会問題から時事テーマまで、独自の視点で鋭く斬る!

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