今週開催されるG20にあわせてトランプ大統領(写真)は中国の習国家主席と会談する予定

 【ワシントン】ドナルド・トランプ米大統領と中国の習近平国家主席は今週、困難に直面している米中貿易交渉の再開の道を探る。これは、両首脳が公言する個人的な相性の良さによって、交渉テーブル上の解決困難に見える食い違いを克服できるかどうかが試される場となる。

 トランプ氏は、3000億ドル(約32兆3000億円)の中国産品に新たに25%の関税を課す計画であり、多くの人は今回の首脳会談について、この計画を実行に移す前に交渉を再び軌道に乗せるための土壇場の話し合いになるとみている。米産業界は、この追加関税が実施されれば、消費者が物価上昇に直面し、以前から確立されていたサプライチェーンが途絶し、世界第2位の経済大国である中国における米国の権益に打撃が及ぶと警告している。

 交渉状況を良く知るホワイトハウス内外の人々は、首脳会談の成果に過度に楽観的になるべきではないと警戒感を示している。米中の首脳会談は、大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議と並行して、29日正午ごろ90分間にわたり行われる予定だ。

 ある米政府高官は今週「両首脳の関係が安定的かつ強固なため、交渉再開で合意する可能性が高い」と語った。それ以上の進展については推測できないという。

 トランプ政権下で経済政策を担当した経験を持つクリート・ウィレムス氏は「結局は、本質部分での対立解消に向け、両首脳がうまくやれるかどうか、政策を管理できるかどうかにかかっている」と指摘。「互いを理解し、互いを信頼できる友好関係を持っていることが極めて重要だ」と語った。

 アジアへ向けて出発する前の26日、トランプ氏はFOXビジネスとのインタビューの中で、習氏との会談で追加関税の適用回避の合意に至ることは「間違いなく可能だ」とした上で、「しかし、われわれは良い合意を得なければならない」と語った。

 米国の関税によって経済成長が鈍化している中国側も、トランプ氏と習氏の良好な関係に期待を寄せている。

 中国商務部国際貿易経済合作研究院の上級研究員のリャン・ミン氏は「貿易交渉チームがブレーキをかけられない状況では、それができるのは両首脳だけだ」「彼らが互いを嫌っていれば、話し合うことさえしないだろう」と述べた。

 中国人民外交学会(CPIFA)のチャオ・ウェイピン副会長はニューヨークでのインタビューの中で、関税、貿易面以外でもずっと大きな影響が出ると指摘。最終的には世界最大の経済規模を持つ米中の関係にかかわる問題だと述べた。

 「中国にとって米国とは何なのか、米国にとって中国とは何なのか」。中国の元外交官のチャオ氏はそう話す。「こうした基本的な問題に注目することがより重要だ。それは、中国は米国にとってライバル勢力なのか、米中の間に共通の利益はないのか、両国は建設的な関係からより多くの利益を得るため互いに協力できるのかといった問題だ」と語った。

 チャオ氏は、米国は最大限の圧力を掛けようとする一方で、中国側交渉担当者らの要求を無視していると、米国のやり方を批判。「これは脅迫や強制のようなものであり、機能しない」と述べた。

 ワシントンに本部を置く戦略国際問題研究所(CSIS)の中国問題の上級アドバイザーを務めるスコット・ケネディ氏は、米中両国間の亀裂の拡大は、問題の早期解決は見込めないことを示唆していると指摘。

 「長期的にこうした課題を解決するには、フーディーニ以上の偉大な能力を持ったマジシャンが必要だ。まして、大阪で数時間のうちに解決することなど不可能だ」と語った。

 米政府は中国に対し、米産業界を不利な状況に置いてきたとの理由から長期的な構造改革を要求している。トランプ氏はこの要求を強めるため、米議会での採決なしに対中関税を引き上げた。

 一方、中国では、習主席が「2期10年」だった国家主席の任期制限の撤廃で任期の延長を目指し、権力の集中化を図るとともに、独自に目標を設定する経済超大国としての立場を打ち出している。中国政府は米国に対し関税引き上げを直ちに撤回するよう求めており、国政に関して米国の指示を受けないと表明している。

 米国が中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)へのハイテク製品輸出を原則禁止したことで、米中の対立は貿易慣行をめぐる問題を超えて国家の安全保障問題、ハイテク問題にまで拡大している。

 5月初めのワシントンでの米中協議では交渉合意に向けた枠組みを策定できると大いに期待されていたが、協議開催の数日前にトランプ氏は、中国政府がそれまでの合意事項について再交渉しようと試みていると非難した。それについて中国側は否定している。トランプ氏は、関税の適用によってすでに打撃を受けていた輸入品目の大半について関税を引き上げる一方、それまで対象となっていなかった年間3000億ドルに達する中国からの輸入品のほぼ全てを追加関税の対象とする方針を表明した。

 その後、数週間にわたり米中関係は期待のしぼんだ状態に陥ったものの、当局者らによれば、両国政府――そして中国の国営メディア――は、これまでのところ相手側の指導者に対する批判を控えている。習主席は今月、ロシアのサンクトペテルスブルクで開催された経済フォーラムの際、トランプ氏を「友人」だと持ち上げた。 

 先週にはトランプ氏が習氏に電話をかけた。トランプ氏は電話会談の終了時にツイートすると、米中会談が行われる予定であることを明らかにし、習氏を「素晴らしい人物」だとたたえた。

 それでも米中の合意が間近だと予想する向きはほとんどない。ファーウェイに対する米政府の動きや、北朝鮮による威嚇行為を含む安全保障上の問題の拡大などにより、G20首脳会議が開催される大坂において米中関係の対立緩和を目指す試みは難しいものになるとみられる。

 中国の王受文商務次官は今週、「中国の原則は以下の通りだ。つまり、相互の尊重、対等な関係、ウィン・ウィンの成果、相互協力、そして同様に、世界貿易機関(WTO)の規則を尊重すること」だと述べた。

 元政府関係者らによれば、トランプ氏が習氏に抱く感情には限界がある。つまり、米国にとって最善のものを求めるという米政権の考え方か、あるいは2020年の大統領選で有権者が中国との合意かさらなる対立のどちらを求めているのかをかぎ取るトランプ氏の本能と照らし合わせた範囲にとどまる程度のものでしかない。

 オバマ前政権でアジア担当の国務次官補を務め、現在はシンクタンク、アジア・ソサエティー・ポリシー・インスティテュートのバイス・プレジデントのダニー・ラッセル氏は「共産主義制度の国家の指導者と個人的に相性が良いと考える米国人は誰であれ、そうしたことに注意を払わない」と指摘。「すべてを左右するのはトランプ氏の政治上の計算だ。そしてそれは必ずしも不変というわけではない」

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