「マスクの買い占め」問題を解決する
経済合理的にまっとうな方法
【橘玲の日々刻々】

2020年3月30日公開(2021年3月15日更新)
橘玲

 新型肺炎の影響が世界的に拡大していますが、今回は社会問題になっているマスクの転売(高額販売)について考えてみましょう。

 ドラッグストアで100円で売っているマスクを、5000円でネットで転売して暴利を得るのは「不道徳」そのものに思えます。しかしこれは同時に、5000円払ってもマスクを手に入れたい消費者がいることを示しています。

 そんな切羽詰まったひとに対して、どんなアドバイスができるでしょうか。

 すぐに思いつくのは、「マスクは少量でも入荷されるのだから、ドラッグストアに並べばいい」でしょう。しかし、朝10時の開店時間に行ってみると、そこにはすでに長蛇の列ができています。

 もっと早くから並ぼうとしても、仕事の都合とか、子どもを保育園に送りに行くとか、老親の介護とか、その時間に店に行けない事情があるかもしれません。その場合はどうすれいいのでしょうか。こたえは、「あきらめなさい」しかありません。

 買い占めという行為は、需要に対して供給が著しく少なく、かつ定額で販売されていることから起きます。本来はとんでもなく高額なはずの商品が格安で手に入るからこそ、真冬の朝6時から並ぶひとがいるのです。高齢者の多くは手に入れたマスクを部屋にため込むだけでしょうが、この価格差を利用してネットで売ると「高額転売」になります。

 ここからわかるように、マスクのような希少商品の「定価販売」は早朝から行列できる「ヒマなひと」を優遇し、さまざまな事情でそんなことはとてもできない「多忙なひと」を差別しています。それに対して転売業者は、「お金のあるひと」を優遇して「お金のないひと」を差別します。

 ここで強調したいのは、「時間による差別」が「お金による差別」より道徳的だとはいえない、ということです。貧しいひとが配慮されるべきだというなら、時間のないひとも同様に扱われるべきでしょう。

 もうひとつ明らかなのは、「買い占めは控えてください」と政府がいくら「お願い」してもなんの効果もないことです。行列するひとの多くは「強欲」ではなく、「マスクがないと死んでしまう」という強い不安に駆られているのですから。

 だったらどうすればいいのでしょうか。本来であればマイナンバーを利用して購入履歴を管理し、「1人1カ月20枚まで」などとルールを決めればいいのでしょうが、技術的には可能でもいまからではまったく間に合いません。

 だったら、行政がマスクを買い上げて医療機関など必要なところに配布したのち、一般販売分は個数制限をつけて、それが売切れたら店頭価格を引き上げるようにしたらどうでしょう。タイムセールと同じで、最初は「(行列できる)ヒマなひと」が購入するでしょうが、価格が一定以上になると「お金のあるひと」が買えるようになります。これなら、「お金のないひと」も「時間のないひと」も平等になり、なおかつ転売業者が暴利をむさぼることもできません。

 店頭価格を引き上げれば小売店は利益を手にすることになりますが、それを税金で回収して感染症対策の費用に充てればさらに一石二鳥でしょう。

【註】「お金も時間もないひとはどうするのか?」との疑問があるかもしれませんが、このひとたちはもともと(行列できないことで)マスクを入手できなかったのですから、値上げで購入できなくなっても不利益は発生しません。ただし、社会的弱者としてなんらかの救済措置を考える必要があるかもしれません。

参考:ウォルター・ブロック『不道徳な経済学: 転売屋は社会に役立つ』ハヤカワ文庫NF

『週刊プレイボーイ』2020年3月23日発売号に掲載

橘 玲(たちばな あきら)

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 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)、『もっと言ってはいけない』(新潮新書) など。最新刊は『上級国民/下級国民』(小学館新書)。

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