「探究学習×イノベーション」のカリキュラムはどのように作られていったのか【後編】探究学習の課題や進ちょくは、ITを利用して全学年で管理・共有する 画像提供:芝浦工業大学附属中学高等学校

課題を発見し、チームを作って解決策を協議し、その成果を学外コンペティションで発表するまでの2年間にわたる芝浦工業大学附属中学高等学校の探究学習のカリキュラムを、今回はさらに具体的に見ていこう。「5つのフェーズ」ではどのような課題が課させるのか。ITやAIの活用法、教員の担う役割について図解し紹介する。(取材・文/奥田由意)

アイデア出しからコンペの参加まで
探究学習「5つのフェーズ」

 探究学習に力を入れる芝浦工業大学附属中学高等学校では、独自の工夫のほか、大学でのイノベーション教育を研究するi.school・堀井秀之氏の協力の下、生徒が未来像を描く力を習得するためのカリキュラムを「5つのフェーズ」に分けて実践している(第53回参照)。

 授業では「自信を持って仲間とともにプロセスをデザインできるようになる」ことを目標に設定し、達成に向けた「課題の発見」「協議チームの組成」「成果発表の場としての学外コンペティションの選択・参加」までの課程を5段階に分類。今回は、各段階で課される課題や、活用するITツールなどについて具体的に紹介していく。

◆フェーズ1:未来の見つけ方(アイデア出し、思考訓練)

「探究学習×イノベーション」のカリキュラムはどのように作られていったのか【後編】「芝浦型Future Compass」は、21_21 DESIGN SIGHT企画展「2121年 Futures In-Sight」展(2021-2022)で発表された「Future Compass」(未来の羅針盤)を、主催者の許可を得てアレンジしたもの。生徒一同で展覧会を鑑賞後に制作し、スムーズに動くよう生徒の一人がプログラミングした 画像提供:芝浦工業大学附属中学高等学校
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「課題(=問い)の見つけ方」の習得は、探究学習の出発点であり、同時に最も難しいタスクといわれる。フェーズ1では、「問いを立て、その答えを考える」トレーニングを行うが、その際に使用するITツールが上の図に示した「芝浦型Future Compass」だ。

 円の中心から「5W1H」「7つの社会テーマ」「8つの動詞」の順にキーワードのグループが弧を描いて並んでおり、各キーワードグループを回すことで、3つのキーワードの組み合わせによる「問い」が生成される(例:What-Culture-Create?)。「芝浦型」の名称は、「Future Compass」を基に生徒がプログラミングを行い開発した経緯に由来するものだ。

 キーワードは幾通りもの組み合わせが可能なので、初めてでも簡単に問いを“量産”できる。また、「問いをつくるのは難しいという固定観念を払拭する」「英語の問いなので、訳し方次第でバリエーションが生まれる」という効果も期待できるという。

 実際、同じ「問い」に対しても、生徒それぞれの志向によって、歴史的、実証的、理論的なアプローチがあったり、一方で哲学的アプローチがあったりと解答への切り口は全く異なる。だが、このフェーズでは、あくまでも「問い」を中心にチームで意見を出し合うことが最優先なので、どんな解答でも否定はしない。

 第52回で紹介した、「i.school」によるワークショップは、このフェーズを経た後に実施されている。未来社会で実現しているであろう最先端科学技術(シーズ)を活用し、未来社会で顕在化するであろう課題(ニーズ)を解決する製品やサービスをどう生み出すか。

 このテーマは、ワークショップ終了後の探究の授業でも、継続的に生徒に問われていく。その成果もあって、最初はアイデア出しにちゅうちょしていた生徒たちも、2年生になる頃には「シーズとニーズ」と聞いただけで、課題解決へのアイデアを広げていけるようになったという。