経営にもイノベーションが必要である<3>ゲイリー・ハメル/ロンドン・ビジネススクール 客員教授

経営にもイノベーションが必要である<3>
【第9回】2016年8月4日公開(2024年7月9日更新)
コンサルティング編集部

「進化優位」を目指して

 前回、話しに出たモーニングスターも、同じような仕組みを設けています(図表2を再度参照)。そういえば、フェデックスには社内裁判制度がありましたね。伝統的な大企業では、マネジメント2.0はなかなか難しそうですが、萌芽的な事例はありますか。

 ゼネラル・エレクトリックは、ノースカロライナ州ダラムに飛行機エンジンの工場を持っていますが、ここでは、400人超のスタッフに対して監督者はたった1人しかいません。それもこれも、情報の民主化の賜物です。情報を可視化し、リアルタイムで提供することで、正しい判断、正しい行動ができるよう、スタッフ一人ひとりを支援しています。

 メキシコのセメックス――1906年に創業された、従業員数約4万4000人のグローバル建材メーカーです――は、部門横断的な「横」のコミュニケーションを奨励しており、非常に協力的なソーシャルキャピタル(人間関係資本)が存在します。ですから、顧客やビジネスに関する問題が生じると、その解決に取り組むバーチャルコミュニティが自発的に生まれてきます。もちろん、誰かの指示や命令ではありません。

 防水透湿性素材「ゴアテックス」の製造元として知られるW・L・ゴア・アンド・アソシエーツ、「伝説のサービス」を提供する百貨店のノードストローム、中国のハイアールなどでは、「逆さまのピラミッド」、すなわち経営者が、現場の従業員一人ひとりのパフォーマンスを最大化するために、できる限りの権限を与え、彼らを支援するマネジメントが実践されています。

 それは、ロバート・グリーンリーフが1970年代初頭に提唱した「サーバントリーダーシップ(*)」――この考え方は老子に遡るといわれています――のことですね。

 世の中、つまり社外が変化するスピードと、社内を変革するスピードのどちらが速いでしょうか。答えは言うまでもありません。多くの組織は、環境適応力、言い換えれば自己変革力に欠けています。事実、業績の悪化、不祥事、経営破綻、M&Aなど、何か事件が起こって、ようやく抜本的な改革が始まるというケースがほとんどです。

 現在、私が取り組んでいるテーマは、「進化優位」(evolutionary advantage)です。それは、組織の変化スピードを、世の中の変化スピードに限りなく近づけ、理想的には同等、あるいは先行することです。

 大企業は、規模の経済、範囲の経済を働かせ、低コスト化や効率化を図ることには長けています。つまり、再現性の世界です。しかしながら、再現するのが難しい世界、具体的には、創造性、イノベーションなど、人々を刺激することで新しい何か(サムシングニュー)を生み出すことは概して不得手です。

 すべての人間に、計り知れない力が宿っています。しかし、組織内部では、管理と統制を第一義とするマネジメントシステムによって、こうした組織メンバー一人ひとりの能力は、その大半が眠ったままです。この秘められた力を解放し、余すところなく活用することが、進化優位を確立するための必要条件です。それは、言うに及ばず、マネジメント2.0への挑戦にほかなりません。

 それはゼロサムではありません。実際、小進化の積み重ねによって大進化は起こります。ただし、このプロセスは何世代にもわたる長い物語です。私たちは、これを短縮する知識と技術をすでに持っています。後は、情熱だけです。(完)


* Robert K. Greenleaf, The Servant as Leader, Center for Applied Studies, 1970.

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