平均評定が高いほど有利になるのは確かな事実
──推薦塾が「勉強ができなくても総合型選抜なら早慶やMARCHに進学できる」と盛んに宣伝をしていますが、そんなうまい話はないですよね。
今でも、そんなことを話している人がいるのですね、驚きました。2020年前後に取材先で「これからは推薦入試が主流になる。一般選抜とは違うルートで大学に進学ができる!」と語る業者やNPOの関係者に出会いました。その人たちの言葉に乗せられて、勉強が苦手な富裕層の子に海外でボランティア活動をやらせたり、豪華な理科室で実験をさせたりする学校も出てきましたが、「経験」をさせるだけでは総合型選抜には受からないのでうまくいっていませんね。お金をかけて箔をつけたら大学に入れるってちょっと甘すぎますよね。
総合型選抜は「多角的に学力を見る入試」であって、勉強が全く苦手だと太刀打ちできないんですよ。文部科学省が推薦入試でも学力をキチンと把握するように「学力把握措置」という方針を打ち出していることもあり、実際の推薦入試は学力重視にシフトしています。
また、日本の場合、推薦入試の多くは指定校推薦です。その指定校推薦では評定平均値が高いことが必須ですし、総合型選抜でも評定平均値は高いほど有利になるのは事実です。
──新興のオンライン推薦塾が「評定平均値が低くても総合型選抜なら早慶上智ICUやMARCHに受かります」と言っているのを見たり聞いたりします。
「推薦に向いてる生徒」はどんなタイプかというと、評定平均値が高いことです。指定校推薦以外でも評定平均値は高いほど有利になるのは確かです。総合型選抜の合格者にインタビューする中で、「総合型選抜を受けようと思った理由は?」と訊くと、「評定が高かったから」と答える学生がしばしばいます。これは絶対的に正しい動機です。出願要件で評定平均値を求めない総合型選抜もありますが、そういう場合も評定平均値が高いほど有利になることは多々あります。
早慶上智ICUの総合型選抜の合格者を取材していると、評定平均値4.8とかざらにいますよ。ただ、全員が評定平均値が高い生徒ばかりでもありません。慶應のSFCは評定平均値が高くなくても合格することはありますし、上智は出願要件が4.0以上ですが、4.0ギリギリでも合格している学生も目立ちます。MARCHや成成明学獨国武も同じで、評定平均値は高いにこしたことはありませんが、指定校に比べると総合型選抜は「評定平均値がすべて」ではありません。
ですから、評定平均値が高くなくてもチャンスはあります。特に関西の私立大学の関関同立の総合型選抜はほぼ評定平均値を評価しないと言われていますね。塾がアピールしている合格者体験記で「評定が2.9で難関私大に合格!」というのはほとんどが関関同立です。
関西の大学は「評定平均値では学力が測れない」という思想とのことで、評定平均値を見ない傾向が強いですね。小論文がもっとも重視されますから、そこを頑張れば合格できる可能性は高まるでしょう。
「現代文」が得意な生徒は総合型選抜向き
──評定平均値が高い以外に「推薦向きな生徒」の要素はありますか。
合格者にインタビューをしていると、「人と話すのが得意だから面接とか強いと思う。だから総合型選抜は向いていると思った」という陽キャラな人がたくさんいます。しかし、実際にはものすごく「調べ学習」をしていますよ。特に難関大を目指すとなると、大学の教科書として使用されている本や論文を読むことが必要なことも多々あります。
たとえば、難関大学の法学部法学科の総合型選抜に合格した学生は「少年法」をテーマに選んで志望理由書を書きました。まず高校生向けに書かれた入門書、大学生向けの入門書を読み、それから刑法、少年法の本を読んでいき、判例や論文も何十も読みました。この学生はそこまで評定平均値が高くなかったから提出書類(志望理由書や課題レポート)のレベルを上げないといけないということで、「調べ学習」を頑張ったそうです。ですから、まずは文献を読むのが得意であることが重要なので現代文の成績がいい生徒は、少なくとも首都圏の私大の「総合型選抜に向いている」といえましょう。
最難関に総合型選抜で合格した学生たちの話を聞いていると「社会の暗記が無理だから一般選抜だと受からなかったはず」「頑張っても英検は2級止まりなんで一般選抜ではまったく歯が立たなかったと思う」というケースもしばしばあります。
──評定平均値や現代文が重要なんですね。「一般選抜で無理でも、総合型選抜なら早慶上智ICUに合格できるかも」と甘く考えている保護者や受験生もいます。
ある大手塾の講師の方がYouTubeで「慶應法学部の総合型選抜のFIT入試に評定4平均値3.9以下で合格したら、レジェンド」と話されていました。レジェンドは少し大袈裟ですが、確かに滅多に聞かないですね。上智やICUに英検2級で合格している学生もしばしば見受けますが、共通するのは、調べ学習がうまくいっていることです。もちろん、そういう学生は本を読むのが好きで得意なタイプです。早慶上智ICUの一般選抜は英検準一級以上の英語力が必要ですからね。それを2級で通るためには、現代文の成績がいいタイプで、文献の読み書きは得意じゃないと難しいんですよ。
なるほどな、と思ったのは総合型選抜に合格している学生には、東野圭吾の小説が好きな人が多かったことです。東野圭吾の小説は読みやすい文章ですが、内容は非常に論理的です。あのような論理的な小説を好んで読む学生はロジカルな思考力が育っている場合もあって、それが武器になるのだと思います。
一方で、武器があれば、夏休みから始めても早慶上智ICUやMARCHには受かります。『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』(青春出版社)に合格体験記を載せましたが、高校3年の9月から対策を始めて法政に合格している通信制高校出身の学生も出てきます。ほかにもたくさんの合格体験記を載せていますが、いつからどんな準備をしたかの詳細を書いていますのでぜひ参考にしていただきたいです。
『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』
(杉浦由美子 著・青春出版社)

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