中高難関校と東大の入試難易度の違い

 中橋さんは不合格になる理由として、まず入試の要素から、難易度の違いを挙げました。入試そのものもやるべきことも、中高難関校と東大では難易度が異なります。開成・麻布・日比谷などの入試が難しいとはいっても、東大の入試ほど難しいわけではありません。高校野球のスターがプロでそのまま通じるとは限らないように、難易度の高い中学・高校の入試問題を解けても、東大の入試問題が解けないことは不思議ではないと指摘します。

 小林さんも、東大は「穴が許されない入試」だと語ります。中学・高校入試は、苦手科目があっても得意科目でカバーができるケースがあるのに対し、東大は苦手科目が足を引っ張って落ちることも多いとのこと。同じ受験生でも早慶なら妥当なところに合格することも多く、逆にそれが東大受験の難しさを示している、と述べました。

当日の調子が結果を左右する、入試の競技性

 入試の要素での理由として2つ目に、中橋さんは、入試の結果は最終的にその日の調子で決まるところがある、という見解も示しました。オリンピックやワールドカップでも、事前に予想された勝敗の確率とは違う結果になることがあるように、入試も競技性が高いといいます。

 東大入試でも、受験生に実力があるほど合格率は上がるものの、それでも本番での運や調子の要素は否定できません。6割で受かる力があっても、たまたま4割を2回続けて引くことがある、という現実的な側面を語ります。

環境による自己認識への影響

小さな池の大きな魚効果
「小さな池の大きな魚効果」で学習意欲が下がる?

 環境要素での理由の説明で、中橋さんは「小さな池の大きな魚効果」(BFLPE:Big-fish-little-pond effect)を紹介しました。元々は、小さなコミュニティの中で優秀な立ち位置でいる方が、学習効果が上がりやすいという理論。最近は、ネガティブな効果もあることが、研究で証明されつつあるといいます。トップ層が集まる集団で下位に沈むと、自己肯定感や学習意欲が下がる傾向にあり、これが開成・麻布・日比谷などの難関校にもあてはまるという指摘です。

 一方で、今の順位や点数が低くても「できると信じるメンタルが大事」という見解も、中橋さんと小林さんの双方の経験から示されました。小林さんは、集団の中で上位にいることで自信を持つタイプの人もいれば、慢心し“やる気”に切り替わらない人もいる、と語ります。更に、自分にとって「本気で東大に行ける」と思える環境・立ち位置を知ることが重要だ、と続けました。

 中橋さんも、やはり自己認識が大事で、自分の適性や性格がどんなポジション(環境)にいれば、「やれば俺はできる」というメンタルと持てるかを把握することが必要だ、と語りました。

超上位校は受験対策予備校ではないという現実

 最後に、環境要素での大きな理由として、中橋さんは、超上位校は受験対策予備校ではないという点を挙げました。例外はあるものの、開成や麻布などの超上位校は、学校での受験対策をほとんどしていないのが事実とのことそのため、入試の勉強開始が遅れて、東大合格というレベルに到達できないケースも増える、としました。

 加えて、小林さんは、開成・麻布の人数の多さと多様性も指摘しました。人数の多い学校では層が厚く、超トップ層の生徒がいる一方、そうでない生徒も当然混じり、多様性があります。規模の大きい学校では、小さい学校よりも、間に合わないケースの割合が多くなるのも無理はない、という意見です。塾での先取りなどの受験対策がないと、本人のポテンシャルというよりも「物理的な時間」が足りずに、東大レベルへの到達が間に合わないことも多い、と語りました。

 また、日比谷など、高校受験を経て入ったケースでは、入学直後に「遊びたい心理」があり、受験モードへの切り替えが遅れる、という点にも言及しました。

まとめ

 開成・麻布・日比谷などの難関校に入った人でも、東大に受からないケースは多くあります。逆にいえば、世の中でトップ層とされる人にとっても、難易度の高いのが東大の入試です。本番当日の調子のほか、中高難関校の環境が自己認識に影響し、受験対策予備校化していないことも、不合格につながる理由。学校に関係なく、「努力が報われる」という側面も示され、早めの受験対策でがんばってほしい、というメッセージが送られました。(次ページに解説動画あり)