2040年度には大学定員充足率が80%に?

 2023年7月14日の中央教育審議会大学分科会において、「2040~2050年度の全国の大学入学者が50万人前後で推移する」とした将来推計が文部科学省から示されました。現在より実に12~3万人ほど少ない数です。2023年度の大学(学部生)総募集数は62万3,245人でしたから、その8割程度の予測となります。

 この資料によると、2040年度の大学進学者数(留学生や社会人入学者を除く)は約49万人と予測しています。49万人というと、2024年度大学入学共通テストの出願者49万1,914人とほぼ同程度の人数となります。

外国人留学生比率が現状のまま (3.07%) であった場合
外国人留学生比率が現状のまま (3.07%) であった場合

※中央教育審議会大学分科会(第174回)会議資料【資料5-1】大学入学者数等の将来推計について「2040年~2050年の進学率・進学者数推計結果」をもとに東京個別指導学院が作成

 私立大学全体の定員充足率は、2023年度に100%を割り込んで99.59%となり、大きなニュースとなりました。定員充足率が100%を切るということは、定員割れの状態を示しています。しかし、上表の国公私立大の推定定員充足率が80%前後となっているように、近い将来にはさらに多くの大学が定員割れに陥ることが予想されます。

 この将来推計資料には都道府県別の状況も示されていて、東京都の2040年度における私立大学の推定入学定員充足率は81.2%となっています。2023年度の都内私立大学の入学定員充足率は103.6%でしたから、20ポイント以上も下落することになります。同様に、大阪府も2023年度に101.4%だったのが83.8%と、大幅な減少が予測されています。

 2023年度では三大都市圏(埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫各都府県の計)の私立大学の入学定員充足率が101.4%なのに対して、その他の道県の私立大学の入学定員充足率は93.5%と、入学定員割れは地方私立大学の課題でしたが、2040年度には全国に広がると予測しているのです。

2023年度の大学入試にみる入学者の割合

 文部科学省の発表によると、2023年度の大学入試での大学入学者数は62万4,615人でした。このうち国公立大学入学者は13万2,909人で、全体の21.3%です。

 私立大学を見てみましょう。旺文社の調査(2024年度入試用 大学の真の実力 情報公開BOOK)によると、一般的に「ブランド大学」と目される私立大学群の入学者数は下表のとおりとなっています(本表の「累積構成比」とは、入学数の項目を上から順に足した数値が全体に占める比率を指します)。

「ブランド大学」と目される私立大学群の入学者数
「ブランド大学」と目される私立大学群の入学者数

※以下の公開数値をもとに東京個別指導学院が作成
・国公立大学入学者数:文部科学省「令和5年度国公私立大学入学者選抜実施状況
・私立大学入学者数:『2024年度用 大学真の実力  情報公開BOOK』(旺文社)
・ただし獨協大学国士舘大学は大学ホームページ

「ブランド大学」と呼ばれる大学群

関関同立:関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学

  • 成成明学獨國武:成蹊大学、成城大学、明治学院大学、獨協大学、國學院大學、武蔵大学

  • 日東駒専:日本大学、東洋大学、駒澤大学、専修大学

  • 産近甲龍:京都産業大学、近畿大学、甲南大学、龍谷大学

  • 大東亜帝国:大東文化大学、東海大学、亜細亜大学、帝京大学、国士舘大学

  • 摂神追桃:摂南大学、神戸学院大学、追手門学院大学、桃山学院大学

 2023年度大学入学者の約半数(49.8%)が、上表にある国公立大学(78校)と私立大学(39校)、計117校に入学しています。2023年度に大学入試を実施した大学は782校ですから「募集全大学数の15.0%の大学に、入学者の49.8%が集中した」ことになります。特に私立大学については、全604大学のうち6.5%に過ぎない39の「ブランド大学」に、入学者の28.5%が集まっていることがわかります。

 高3生・高卒生 ベネッセ・駿台大学入学共通テスト模試(2023年11月)の合格可能性判定60%以上偏差値で、各大学・学部の代表偏差値の平均をとると、「大東亜帝国」で偏差値50.6、「摂神追桃」で偏差値49.6となるので、模試受験生で平均点が取れるぐらいの学力層といえます。

 もちろん、上表は各大学の良しあしを示すものではありません。上表にはなくとも素晴らしい教育・研究成果を上げている大学や、受験難度の高い大学はたくさんあります。

2040年代にはGMARCHが平均レベルに?

 以下に述べるのは2040年代を考察した、仮定の話です。2023年度の大学進学率は過去最高の57.7%でした。仮に2041年度の大学進学率が文部科学省の推計どおり59.7%で、上記大学群が入学者数を減らさなかった場合は、以下のような試算となります。

国公立大学と「ブランド大学」の入学者数の、大学入学者数全体における累積構成比
国公立大学と「ブランド大学」の入学者数の、大学入学者数全体における累積構成比

※上の表に2040年の試算値を加えて東京個別指導学院が作成

 2023年度の大学入学者は、35%を国公立大+「早慶上理」+「GMARCH・南山・関関同立・西南学院」が占めていました。それが2041年度は、国公立大+「早慶上理」のみで33%近くを占める予想です。「GMARCH・南山・関関同立・西南学院」を含めた累積構成比は46%となり、2023年度の国公立大+「早慶上理」+「GMARCH・南山・関関同立・西南学院」+「成成明学獨國武」+「日東駒専・産近甲龍」の累積構成比を上回ります。これは、2041年度まで各大学が募集定員を減らさなかった場合の試算です。

 この試算が何を示すのかというと、2040年代には、今でいうGMARCHや関関同立といった大学群の学生は珍しくない時代が来るということです。いわゆる「ブランド大学」の位置づけが大きく変化することになります。

 2023年度の一般入試で、「日東駒専」の全校で倍率(志願者数÷合格者数)が3倍を切りました。2023年度は「GMARCH」6大学とも3.5倍以上でしたが、全大学の入学者の約半数が「GMARCH」「関関同立」以上となる時代には「GMARCH」でも3倍を切る大学が出てくるかもしれません。また、その際には「日東駒専」や「産近甲龍」といった大学群は、現在よりも入学しやすい大学になっているでしょう。

少子化の中でも募集定員を減らさない大学や、増やす大学も

 少子化が進み、各大学が大学入学者数を絞り込むのではないかと考える方もいらっしゃるかもしれません。1998年から2023年にかけて、高等学校等の卒業見込み者は少子化の影響で67%にまで減少しましたが、国公立大学の入学定員は105%とむしろ増加しています。2024年度入試でも対前年比高等学校卒業者数は96%にもかかわらず、国公立大学の募集人員は101%と増やしているのです。

高等学校等卒業者数と国公立大学入学定員数の対1998年増減率

高等学校等卒業者数と国公立大学入学定員数の対1998年増減率

高等学校等卒業者数と国公立大学入学定員数の対1998年増減率

※文部科学省「大学入学者選抜関連基礎資料集」「入学者選抜実施状況」、大学入試センター「大学入学共通テストの志願者数について」をもとに東京個別指導学院が作成

 また、以前のコラムで紹介した「大学・高専機能強化支援事業」では、上表に挙げた私立大学だけでも合計1,274人の入学定員の純増を計画しています。特に関西大学は、ビジネスデータサイエンス学部ビジネスデータサイエンス学科とシステム理工学部グリーンエレクトロニクス工学科の新設で410名の純増です。早稲田大学のように学生数を減らす動きを見せる大学がある一方で、さらに学生数を増やす意向の大学もあるのです。

「ブランド大学」の入学定員増減数
「ブランド大学」の入学定員増減数

 

※大学改革支援・学位授与機構「成長分野をけん引する大学・高専の機能強化に向けた基金による継続的支援 『大学・高専機能強化支援事業』」をもとに東京個別指導学院が作成

 大規模・中規模大学は多数の施設や教職員を保有しており、教育や研究の質を維持するための費用が大きいのが一般的です。減らした在籍者の授業料・施設費等に転嫁(値上げ)することはできないでしょう。私立大学の収入の77%は学生生徒の納付金によって得られています。そうすると、急速に入学定員を減らすことは難しいと思われます。

 リクルート進学総研が2023年夏に大学・短大の理事長に実施した、大学の規模について今後の方向性を尋ねた結果調査では、11%が規模を拡大、58%が現状維持。縮小は31%という回答でした。

大学の規模に関する今後の方向性

大学の規模に関する今後の方向性
※引用:リクルート カレッジマネジメント 239│Jan.-Mar. 2024より

 つまり、少子化が明らかな近い将来においても全大学が大学規模を縮小するのではなく、縮小・消滅する大学がある一方で、拡大していく大学も出てくるということになります。拡大するのは、大規模かつ入学志望者が現状でも多い(入学したい受験生が多い)大学が中心になってくるのではないかと、個人的には考えています。

保護者は個々の大学の在り方が変わっていくことに留意したい

 子どもの現在の年齢によって大学進学が何年後になるかは異なるでしょうが、保護者に留意してほしい点を3点挙げます。

①大学組織が変わっていく可能性を見据えた情報収集

②「ブランド大学」の変化に注意

③中学受験を考えるときは、大学の情報収集も

 まず、1点目は「大学組織が変わっていく可能性を見据えた情報収集」です。先に触れました理事長への調査でも、今後3年間程度の比較的近い将来に教育組織の改組の可能性が「現時点での予定または検討はなし」との回答は35%にとどまっています。つまり、65%程度の大学が学部の新設や廃止、既存学部学科の改組・分割・統合再編を検討していることがわかります。

今後3年程度の間に教育組織の改組の可能性

今後3年程度の間に教育組織の改組の可能性
※引用:リクルート カレッジマネジメント 239│Jan.-Mar. 2024より

 また、中央教育審議会での「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について」の検討結果により、各大学の役割や重視する内容が長期的には変わってくるかもしれません。このように、短期的にも長期的にも大学が変わっていく可能性がありますので、気になる大学の情報はこまめに収集しておくとよいでしょう。

 2点目です。「『ブランド大学』の変化に注意」です。

 現在、難関私大といわれている「GMARCH」は、受験難度でいえば中位層へと変化します。行きたい受験生が多く、かつ入学しづらい大学が「ブランド大学」だとしたら、GMARCHレベルの「ブランド力」は現在よりも低下していることでしょう。同様に、「早慶上理」の「ブランド力」も現在より低下し、現在の「GMARCH・関関同立」あたりになります。

「ブランド大学」に子どもを入学させようと考える保護者は、かつて大変多く見かけました。現在でも少なくない保護者がそう考えています。しかし、少子化によって「中位層がGMARCH」の時代が到来したら、単に「GMARCHを卒業した」だけでは優秀とは評価されなくなるでしょう。

 例えば、就職時にも大学の名前ではなく、大学で何を学び、何ができるようになっているかが、現在よりも重視されるようになると個人的には考えています。

 3点目は「中学受験を考えるときは、大学の情報収集も」です。少子化の影響は大学受験だけでなく、中学受験や高校受験にも及びます。しかも、大学受験の6年前(中学受験)、3年前(高校受験)からその影響が生じるという点です。

 私立中学入試も、少子化により全体的には易化すると考えられます。有名私立大学の付属校の人気も、中・長期的には沈静化するのではないかと個人的には考えています。

おわりに

 中学受験で進学校を志望するのか、大学付属校(系属・系列校を含む)を志望するのか、付属校だとしたらどの大学の付属校を志望するのかという判断は、大学受験生よりも6年も早い段階で行わなければなりません。そして、中学受験準備をスタートするか(子どもに中学受験勉強をさせるか)どうかの判断は、もっと手前の段階になります。その時々での中学受験や大学受験の状況や、その後に予想される状況の情報収集は、中学受験を視野に入れているご家庭ほど早期から始める必要があるのです。