シンジくんのアプリが共感を得る理由

 シンジくんのアプリは、なぜ多くの人から共感を得たのでしょうか。機能やデザインが優れていることはもちろんですが、それ以前に「半径50センチの課題解決」をカタチにしたアプリだからだと思うのです。詳しくは後にお話しますが、私はライフイズテックの受講生に、今の中高生は自分のごく身近なところから「世界を変えられること」、すなわち課題を解決できることを伝えてきました。

 どんなことでも良いのです。学校のこと、家族のこと、好きなゲームのこと、どんなことでも中高生が自分で思い入れを持てる「半径50センチの課題」を見つけてほしい。理由の一つ目はITを使って社会の課題を解決できる人に育ってほしいから。これは大人側の願いも多く含まれてはいますが、今の中高生はITを使えば課題を解決できる当事者になれるのです。シンジくんだけでなく、みんながそうなれます。その第一歩を踏み出すために、まずは身近な課題を見つけてほしいと考えています。

 そして、もう一つの理由は、思い入れのある課題が、学びやものづくりのドライバーになるからです。アプリ開発を行う上で受講生はいくつもの壁にぶち当たります。そもそも「プログラミングに興味を持つことの壁」に始まり、次は「技術を理解し活用する壁」、そして「前例のないオリジナル作品を作りきる壁」といった具合に。しかし、思い入れのある課題、言い換えれば「自分ごと」になる課題があれば、子どもたちはどんどん学び、調べ、作り、仕上げていきます。半径50センチの課題を持つことは、社会や大人のためではなく、自分自身の可能性を引き出すためでもあるのです。

 未知の課題を見いだし、自らそれを解決する能力は、これからの時代に最も求められる資質です。そして、課題解決をスピーディーに、高いクオリティで、一定のスケールを持って行うためには、ITの活用が不可欠です。今の時代の大きな課題解決にICTが関わっていないケースはまずありません。ITを使って課題解決できる人は、すでに引く手あまたな人材になっています。言い換えれば、ICTリテラシーを子どもの頃に身に付けているか否かが、その子どもの将来を大きく左右しかねないということになります。

 10年に一度改訂される学習指導要領は、その10年後に想定される状況を見据えて作成されています。つまり、2020年から1年ずつ小・中・高の順に導入される新しい学習指導要領は2030年の未来を見据えています。小学生へのプログラミング教育の導入もその一環です。

 21世紀生まれの子どもたちは、すでに親の世代は未体験で想像もつかないような世界に足を踏み入れています。未来型の教育をいかにして学校に届けるか、2030年よりその先、2040年に想定される世の中の姿を見据え、今どんな教育を行うべきかについて、次回以降お話ししたいと思います。