親に言われて志望校を決める受験生の悲劇

後藤 数年前にE大学問題というのが起きました。なんと、年内の募集で定員まで合格者を出してしまった。こうした動きが、高校側にも染み付いている。しかも、今年度からは要件を満たせば総合型のみで入学者選抜することも可能。

安田 総合型とか学校推薦型でたくさん取ってしまうと、一般選抜の枠は狭まり、競争率が上がってしまう。極端な例では、昨年も指定校推薦とかで枠が埋まってしまったので2期はやりませんと公表した首都圏の大学がありました。また、あまりにも志願者が来すぎて、学校推薦なのに不合格者を出した大学も複数あります。

後藤 指定校に不合格を出しちゃうと高校側から説明を求められますよね。

安田 指定校推薦で不合格になったのがどのような人か知りたいのでいろいろ聞きます。例えば、外国から転校してきて、成績は良いが日本語の授業にはついていけないのでさすがにお断りしたとか。あるいは、早稲田の指定校推薦を受けに来ているのに、本人は「慶應に行きたい」という。「じゃあ、なんで君来たの」と聞くと、「親が行けと言ったから」と答えるのだそうで(笑)。 

後藤 親に言われると、学校の先生はなかなかノーと言えない。しかも、「本人の意思」だと親に言われちゃったらどうにもならない。そういうところが昔とだいぶ違っています。

安田 「ここは名前も通っているし就職もいい。うちの息子を行かせたい」と言ってきたので、高校の進路指導の先生は、「文系ですからそんな無理なことはやめなさい」と言ったものの、お母さんから「うちの息子の進路に先生がケチをつけるのか」と言われてしまって、先生はもう断れなくなった。

 それで、その工業大学に「ごめん、今度こんな子が行くけどなんとかしてくれ」と頼んだ。しかし、文系だから数IIIをやっていない、物理もやってない、基本的にできない。それで、大学が親を呼んで、「こんな成績だから、申し訳ないけどもう辞めてくれ」と言ったのだそうです。

後藤 ところで、2020年度の一般選抜は志願者が減ったものの、合格者も減らしたから難しかった。そのことは高校にも知られているので、「年内に(総合型や学校推薦型に)出願するから」と生徒に言われたらもう止められない。その状況は2020年度も2021年度も変わらない。すごく不幸な状況で入試が行われている感じがしています。あまり学力がないのに一般選抜で行こうという受験生にとって、今年はすごく厳しい状況にある。