大学入試改革の仕組みと現場に精通しているお二人だけに、本質的な問題点が会話の中から浮き上がってくる(聖ドミニコ学園にて)

時代の変わり目での出会い

安田賢治 (やすだ・けんじ)
1956年兵庫生まれ。灘中学校・高等学校から早稲田大学政経学部に入学。在学中、世界各地を放浪し、占い師の見習いも経験。卒業後、1983年大学通信に。同社常務取締役と情報調査・編集部ゼネラルマネージャーを兼ね、さまざまな媒体に大学情報を提供してきた。中学受験から大学入試まで語れる希有な人材だった。2022年3月13日逝去。

――生前の安田賢治さんとご縁のある方をお呼びして、当時をしのびながら、大学入試改革と高校の現場の様子について、お話していきたいと思います。今回は、大学入試改革に関する著書も多数ある石川一郎先生にご登場いただきました。

後藤 石川さんと僕の最初の出会いは、7年前のことでした。明治大でイベントに参加した帰り道、九段下辺りを歩いていたら、安田さんから携帯に電話が掛かってきて、「お願いしたことがあるので、ちょっと事務所に来てほしい」と。東日本大震災のあと移転して、当時、二番町(千代田区)に大学通信はありました。その時、事務所で待ち受けていたのが、石川さんでした。

石川 かえつ有明で、2015年に新コース「プロジェクト科」を立ち上げるとき、重要なのは「なぜなら」ということにあるので、そのパンフレットを作りたいと安田さんに依頼したところ、「そんなものを書ける人はいませんね」と言われたところでした。

後藤 そのときはまだ、セオリー・オブ・ナレッジ(TOK)に関する本は作っていませんでしたが、その考え方は知っていたのでその場で説明したら、安田さんが「明日までに書いてくれ」と(笑)。

石川 ちょうどあの頃、私の勤めていたかえつ有明からも初めての東大合格者が出ました。安田さんなりの、学校として持つべき物差しの一つとしての「東大合格者」という指摘が印象的でした。

――2016年に石川さんの著書『2020年の大学入試問題』(講談社現代新書)も世に出ていますね。大学入試がどうなってしまうのか、世間の関心も高い時期にタイムリーでした。

石川 あの本はティピカルな例を取り上げ、そこから広げて解説したものでした。せっかく出てきた国の動きに、誰かが「賛成」と声を上げないといけない。周りは否定的な人ばかりでしたから(笑)。

後藤 自分のやり方を変えたくない教員は、「改革」というと反対するわけですよ。

石川 これは逆張りに出た方がいいと、面白い入試問題をかき集めました。文部科学省の方針に沿って出しているものもある。そうした問題自体を知らずに反対しているような状況でしたが、当時は私自身、文科省の進める方向には行かないなと思っていました(笑)。

 大学入試改革について、安田さんは国の方針も読んでいましたし、現場の動きも正しく見ていたと思います。エビデンスに基づきながら、「GMARCHは…」と動きを捉えた正確な分析をされていました。

後藤 安っさんて、面白くて、あの風体であの物言いで、ちゃんと論理的なのですよ(笑)。

石川 すごく論理的で驚きました。教員の世界では、数字を見ている人が意外と少ない。学習指導要領の変化も見ていません。

後藤 見てないですね。自分の思いの方が強い教員が多いですから。