淘汰されていく女子大の未来    

――学習院大が学習院女子大を2026年に統合する旨の発表が、この7月末にありました。同じ学校法人の傘下にあるとはいえ、女子大かいわいには大きな衝撃ではないかと思います。

後藤 付属の女子中高をどうするかというのはありますが、都内の大学にとって「定員」というのは重要な経営資源です。その分をIT系の新学部づくりに振り向けるのかもしれませんね。“産業構造の転換”とはこういうことなのです。

井沢 コロナ禍で国際系の学部の人気が下がる中、学習院女子大の国際文化交流学部は、23年度の一般選抜で志願者が増えました。共学化することで男子が入れば、単純計算で対象者は2倍になる。底力があるうちに統合するのは良いことだと思います。 

後藤 学習院女子大も2001年に廃止された短大から四大化したわけですが、1990年代から2000年代にかけては、短大が四大化になるチャンスでした。その後は、国も「これから専門職大もつくるから」と呼び水を用意していましたし。このタイミングで四大化しなかった女子短大の多くは、これから苦難の道を歩くことになります。

 その背景には教員の問題があります。短大についての話は、別の機会にまたいたしましょう。元来、経済的に厳しい状況では、2年で準学士(短期大学士)を取得できることにはそれなりにニーズがあるはずなのです。

――学習院女子大は短大時代からずっと、大手金融機関への就職状況が良いことも売りでしたね。

井沢 「出口」ということでは、女子大は「就職率」で競う傾向にあります。連続トップだった昭和女子大を今年は東京家政大が抜いたことが話題になりました。  

後藤 少子化で売り手市場のいま、就職率を競っていてもねえ。どこに行くのかが重要になります。昭和女子大の場合は、世田谷のキャンパスに幼児から大学院生まで、イギリスの学校も構内にあるし、隣接してアメリカの大学の日本校もあるという多様性が確保されているところが他に例を見ない点ですから。多様な文化に触れる機会があり、その影響か、就職先も良くなっています。

井沢 “量(率)”よりも“質”ですね。ひとくちに女子大といってもその内容にはだいぶ差があると思います。  

後藤 苦しくなる女子大の要素は三つあります。短大から四年制大学化してもカリキュラムが短大時代の“良妻賢母”の延長上にある、キャンパスが郊外にある、付属校からの内部進学者が少ない。特に、カリキュラムの問題は大きい。短大から四大に変え、短大の学科を新たな学部へと看板をかけ替えても、担当する教員は同じで、何も変わっていない。

井沢 地元の人はよく見ていますから、すぐにばれてしまいます。

後藤 そして、四大化するときに共学化したところもありますが、すでに「共学化」といった最後のカードを切っていますから、そこから先の解決策はなくなります。厳しいですよ。そうした大学の中には共学の大学であっても、女子学生の方が多い実質的な女子大も見られます。短大の拡大版として四大で設置された代わり映えしない学部・学科の問題が大きいです。

――学部・学科の問題は大きいですね。

後藤 産業構造の転換のため、情報系や理工系を新設するにあたり、文部科学省が4年間は助成金を付けるというので、データサイエンス学部を女子大でも新設する動きも出てきました。これには二つ問題があって、こうした情報系の学部名に“ビジネス”とかを付けたがる傾向がある。

 せっかくの情報系が、「ビジネス」を付けたことで営業系の“ソルジャー”養成になってしまう。「人間を走らせるな。電子を走らせろ。人間は疲れるが電子は疲れない」といった帯を巻いたDX(デジタル・トランスフォーメーション)関連の書籍もありました。Chat GTPなどAIの時代で営業職が不要になる時代の流れに合っていません。助成金が付くから動いているのでしょうが、それは単なる延命策の一つにすぎません。

井沢 工学系でもデータサイエンスやロボティクスのようなものが多いですね。こうした教員は不足しています。ただ、ライバル校と掛け持ちされてうちの内情が分かってしまうのは嫌だ、という関係者の声もありました。

後藤 大学の教員養成は全くできていません。企業などで実務を担ってきた人をこうした分野の教員に迎える例が多くなりますけれども、そういう人は学問を体系的に教えられません。

――延命策という意味では、定員充足率だけ見ても、割れている女子大がすでに過半数を超えています。  

後藤 これからつぶれそうな大学には、女子大に限らず、いますぐにも丸印を付けられますね(笑)。