悪質タックルから薬物問題まで5年半の間に日本大学のガバナンス問題というパンドラの箱を開く役割を担ったアメリカンフットボール部「フェニックス」(東京・世田谷区)

悪質タックルが開いたパンドラの箱

――悪質タックル問題(2018年5月)から5年半、今回の薬物問題で廃部が決まったアメリカンフットボール部ですが、理事まで務めた元部長が相撲部出身の元理事長の側近で、競技部OBによる学内支配の象徴でした。その後、こうした日大の「パンドラの箱」が開き、背任や脱税事件で逮捕者が出るなど、理事会のガバナンス不足を暴き出す役割を、結果として担う形になりました。

井沢 秀(いざわ・しげる)
大学通信情報調査・編集部部長。1964年神奈川県生まれ。明治大学卒業後、大学通信入社。「夕刊フジ」をはじめ、各紙誌で大学に関する多くの連載を持つなど、精力的に発信を続けている。 Photo by Kuniko Hirano

後藤 一時期、日大職員にやたらと相撲部OBがいました。広報もそうでしたが、以前ある業者が、ちょっとした掲載トラブルで就職担当の現場責任者に謝りに行ったことがあります。そうしたら、「うちの金看板に泥を塗る気か」と怒鳴られて、とても恐かったらしいです。ストレスがたまっていたのでしょう(笑)。

井沢 そういうことは、さすがにいまはないですね。今回、アメリカンフットボール部の廃部が決まりました。悪質タックル問題の後、出場停止もありトップではなくなったとはいえ、法政大や早稲田大、関西学院大あたりで選手を引き取ることはないのでしょうか。新しい組織で3部リーグからやり直しでは、いまの3年・4年生ではもう部には戻れませんから。  

後藤 閉校が決まって学生募集が停止した大学は、在校生の転学先を探しますが、同情してそこより上位の大学が中途で受け入れてくれるケースもあります。日大のアメフト部対象にドラフトをやるといいかも。悪質タックル問題を受けて、田中体制の5年前に競技部改革をして、「学生ファースト」を掲げているのだから。学生にはアメフトの競技人生を歩める最大限の配慮をしてあげたいですね。

――この時、大学付属機関としての位置付けだった「保健体育審議会」と事務組織「保健体育事務局」を廃止しました。再発防止策として、学長によるガバナンスが直接及ぶよう、大学本部に競技スポーツ部を新たに設置しました。しかし、すでに見てきたように、ガバナンスは発揮されませんでした。総務・人事担当で、危機管理総括責任者である村井一吉常務理事は、「体調不良」ということで、12月31日付で常務理事および理事を辞任するそうです。

井沢 他大学では、3年前に部員が寮で大麻を吸って東海大野球部が無期限活動停止になっています。22年に部員が性犯罪を起こし実刑判決となった同志社大アメフト部はやはり無期限活動停止、古くは部員が強盗事件を起こした近畿大ボクシング部が廃部になっています。早稲田大の相撲部は薬物問題が目立たなくなって、日本最大規模の大学である、日大のニュースバリューが大きいということでしょう(笑)。

後藤 成人年齢に達している学生の不祥事で、大学側が謝る必要があるのかと感じることもありますが、それでも合宿所や寮は大学の施設なので、管理責任は生じる。ガバナンス問題はアメフト部だけではない。理事が競技部の監督やコーチを兼任することは禁じられたものの、推薦による入学者選抜とその後に大きな影響力がある。いわゆる田中元理事長派もまだ残っているだろう。

――第三者委員会報告書にも、34ある競技部は「法人でも教学でもない第三極を形成しているとの指摘も」と書かれていました。競技部入部式が別途行われ、23年度は470人が新入部員予定者だったそうです。競技部を統括する競技スポーツ部は、学務部、研究推進部、学生部と並ぶ存在ですし。