子どもが答えを写してしまう理由とは
実際、教育心理学の研究では、答えを写すという行為の裏には、実に様々な心理的要因が隠れていることが分かっています。例えば、スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック博士の研究によれば、子どもが答えを写してしまう主な理由として以下の3つが挙げられています。
- 「できない自分」を見せたくない不安
- 努力しても報われない経験の積み重ね
- 課題の意味や価値が理解できていない
つまり、単なる「怠惰」や「悪意」ではないことが多いのです。
子どもが不安を抱く原因は環境にある
例えば、もし「できない自分を見せたくない不安」が原因だったとしたら。
実際にあった例だと、大手塾と併用していた子で、宿題ノートの提出があり、できていないと先生に怒られるから答えを写していたという子がいました。先生に怒られるのが怖いという状況が変わらなければ、子どもはまた答えを写さざるを得ないですよね。
また、この時期にありがちな例としては、過去問で良い点数を取りたいという気持ちから答えを先に見て問題を解いていた子もいました。こうした描写が大ヒットしたマンガ・ドラマ「2月の勝者」の中にもありましたよね。
「良い点を取って親を喜ばせたい」「実力で挑んだら悪い点数を取って親をがっかりさせそうで不安だ」そんな健気な気持ちから、答えを写してできたことにしたり、先に答えを見てから問題を解いたりする子が少なからずいるのです。
そうした「できない自分を見せられない環境」を変えていかなければ、子どもは答えを写すのが悪いことだとわかっていても、それをやめられないのはお分かりいただけますよね。
子どもを責める言葉で問題は解決しない
また、ここには同時に「努力しても報われない経験の積み重ね」がある場合がほとんどです。
子どもたちだって、できることなら自力で正解して、良い点数を取って、先生に褒めてもらいたいですし、親に喜んでもらいたいと思っています。それができたらどれだけ誇らしい気持ちになれることでしょうか。
ズルをして先生に褒めてもらったり、親に喜んでもらったり、そんな時に、子どもたちはどれだけ裏で罪悪感やみじめさを感じていることでしょうか。
想像してみてください。もしあなたのお子さんが、あなたに喜んでもらいたいと思っていて、でも自分の実力ではそれがかなわないから、罪悪感を抱えながら答えを見て写したとしたら。その時にお子さんはどんな気持ちを抱えているでしょうか。
決して怒って「あなたは悪いことをした」と責めれば解決することではないとお分かりいただけるのではないかと思います。
問題解決に向けて進めたい段階的なアプローチ
では、具体的にどのように対応すれば良いのでしょうか。私が保護者の方々にお伝えしているのは「共感・理解・環境改善」の3段階アプローチです。
第1段階:心情への共感
最初のステップは、子どもの気持ちに寄り添うことです。
「難しい問題が多くて、つらかったんだね」「時間が足りなくて、焦っちゃったのかな」こうした共感的な優しい声かけで、まずは子どもの気持ちを落ち着けてあげてください。
この「共感」の効果は脳科学的にも証明されています。子どもが不安や恐れを感じているとき、脳の扁桃体が過剰に活性化し、理性的な判断を司る前頭前野の機能が低下します。
しかし、共感的な声かけを受けることで、この状態が緩和されることが分かっています。気持ちが落ち着くと、子どもは状況をより良くするための話し合いをする準備が整います。
第2段階:状況の理解
次に、なぜそうせざるを得なかったのか、子どもと一緒に理由を掘り下げていきましょう。
例えば、答えを写した理由が「難しい問題が多くてつらかった」だとしても、それは表面的な理由でしかありません。なぜ難しい問題が多いとつらくなるのでしょうか? そこが根本的な理由です。
そこには先ほどお話ししたような、「先生に怒られて嫌な思いをする」とか、「親をがっかりさせることになるのがつらい」といった本当の理由があります。
子どもは往々にして、自分の行動の理由を上手く説明できません。自分自身で理解できていないことも多いのです。ですから、私たち大人が手伝ってあげる必要があります。
「最近、勉強で困っていることはない?」「宿題をやるとき、どんなところが大変?」。こうした「open-ended」な質問(自由に回答できる質問)をすることで、子どもは自分の気持ちを整理する機会を得られます。そして、子どもの本音を聞きだし、受け止めてあげてください。
こうした本音を聞き出すためには、本当のことを言って良いんだという安心感がなければいけません。ですから、あらためてですが、まずは第1段階の「共感」を忘れないようにしてください。
焦っていきなり聞き出そうとしても、子どもは心を閉ざし、口を閉ざします。
第3段階:環境の改善
最後に、子どもがより良い行動をできるようにするための環境を改善しましょう。
「これからは答えを写さずに自分でやろうね」と指示をしても効果は期待できません。それでは子どもが答えを写した根本的な理由の解決になっていないからです。
「できない自分を見せたくない不安」が背景にあるんだとしたら、その不安を与える環境を取り除いていく必要があります。
実際の相談例でも、「先生が机を蹴るのが怖い」というお話をうかがいます。最近では中学受験の集団指導塾に通っているお子さんからそういった話がありました。
直接的な体罰はダメだということがだいぶ浸透してきていて、昔に比べて前進したと感じますが、そうやって精神的に子どもを追い込んで勉強をさせようとする指導者がいまだにいるのが残念な現実です。こうした塾の先生に怒られる不安があるならば、塾の先生と面談で指導方針の見直しをお願いする必要がありますし、改善が見られないようなら塾を変えることも視野に入れる必要があります。
また、親をがっかりさせるのが不安で答えを見たり写したりするならば、家庭環境を改善していく必要があります。つまり、結果に一喜一憂するところを子どもに見せないようにし、努力する過程に注目した声かけをしていくように心がけるということです。
私たちテスティーでも、生徒が「分からない」と正直に言える環境作りを特に重視しています。「できなかった問題こそ宝物! 成長のチャンス!」と子どもたちに伝えながら、難しい問題にチャレンジしていることをポジティブに評価するようにしています。
成功体験の積み重ねをサポートすると効果的
さらには、「努力しても報われない経験の積み重ね」を払しょくしていく必要もあります。
「まずは簡単な問題からステップアップしていこう」「分からないところがあったら、一緒に考えてみようか」。こうしたアプローチをしてみてください。
そうやって具体的な成功体験をさせてあげることは、問題解決に特に効果的です。オックスフォード大学の研究でも、小さな成功体験の積み重ねが、自己効力感を高め、不正行為を減少させる効果があることが報告されています。
繰り返しになりますが、ズルをして手に入れた高得点で親が喜んでいる姿を見るとき、子どもは心のうちで大きな罪悪感を抱え、みじめな気持ちになり苦しんでいるのです。自力で成果を出し、誇らしい気持ちになれるようにしてあげれば、子どもはわざわざそんな不正行為を選ぼうとはしません。
これもまたテスティーで大事にしているポイントですが、集団授業のように決まったカリキュラムを機械的にこなすのではなく、その子が自力でできる問題から着実にステップアップさせるようにしています。そして、つまずいたらヒントを与えながら、自分で正解にたどり着くように後押しし、成功体験を積み重ねさせています。
ご家庭でも同じように、お子さんに合わせた内容を適切に選び、サポートをしながら成功体験をさせてあげてください。そうしたサポートを得られる環境を整えれば、子どもは答えを写すような行動を選択する必要がなくなり、ちゃんと自力で取り組むようになりますよ。
子どもの問題行動は大人の「学びの機会」と捉えよう
最後に一つ、重要なポイントをお伝えしたいと思います。それは、何か問題が起こったときには、それを私たち大人も「学びの機会」として捉え直すということです。
子どもが何か問題行動をしたときには、そうせざるを得なかった原因があります。例えば今回のテーマである答えを写すという行為においても、それは現在の子どもが置かれた「環境」に何らかの不具合があることのシグナルだ、ということがお分かりいただけたと思います。
こうしたときには、子どもに原因があり、子どもの行動を改善させようと考えても、失敗に終わることがほとんどです。私たち大人の側が、子どもにそういう行動をさせた環境的な要因に気付き、それを変えていきましょう。それこそが根本的な解決につながります。
ぜひ子どもの問題ではなく、環境の問題なんだと考え、トラブルは環境改善のための学びの機会にしていきましょう。環境を正しく変えられれば、お子さんは自然と正しい学習を積み重ね、しっかり成績を上げていってくれますよ。
それでは!

