私立人気で、県立高校の倍率は落ち着く
――まずは今年の埼玉県の公立高校受験の概況について教えてください。埼玉は県立高校に名門校が多く、公立が強い印象ですが。
松田:公立高校を第1志望にする受験生の割合は減っています。2024年度も前年度から低下して63.8%でした。この数字は今後も減る可能性があります。
埼玉県内の私立高校の大学進学実績が伸びていることや、人口が多い県の南地区は東京方面へのアクセスがよいので、県外の学校を第1志望にすることも少なくありません。埼玉県内にある早慶MARCHの付属校は慶應志木、早稲田本庄、立教新座の3校のみですから、慶應女子、立教池袋、中央大学杉並、明大明治、明大中野など、埼玉県内からも比較的通いやすい場所にある東京都内の付属校を志願する生徒も多くなっています。この私立志向に加えて、最近ではN高などの通信制の高校への進学希望も増えてきました。
その影響もあってか、埼玉の県立トップ3校でも倍率が落ち着いている状況です。県立大宮が1.32倍、県立浦和が1.27倍、県立浦和一女が1.29倍です。来年は反動で倍率が上がる可能性もあるので、受験生は気を引き締めたいところです。
他ですと、川口市立(普通科)は2021年度から2023年度にかけて1.71→1.81→1.93倍と倍率が上がってきましたが、2024年度は1.26倍に下がりました。高倍率が続いたので、それが落ち着いたと思われます。
市立浦和は人気で、2022年度と2023年度は2倍以上でしたが、今年は1.68倍に下がりました。その反動で、来年はまた受験生が増える可能性があります。
一方、市立大宮北は2年連続で1.1倍未満の倍率と、ほぼ競争がない状態でしたが、2024年度は1.35倍に上がっています。
課外活動や資格を得点化するが、合否への影響は?
――公立高校の入試では内申点も重要になると思いますが。
松田:埼玉では中学3年間の9教科の内申点が評価されます。基本的にどの教科も同じ比重で、東京のように実技科目が2倍になるようなことはありません。埼玉の公立では学力検査は1度のみですが、選抜が2回行われます。まず第1次選抜を行い、それに通らないと第2次選抜という流れになります。第1次選抜では「学力検査:調査書」の点数比率が「4:6~6:4」、第2次選抜では「3:7~7:3」の割合で学校により比率が違いますが、難関校ほど学力重視になります。
埼玉の公立受験で特徴的なのは、「特別活動」「その他」といった課外活動の実績や、英検などの資格を得点化して評価することを明文化している点ですね。熊谷西は評定(内申点)が180点、特別活動25点、その他25点と両者の比重は低いのですが、市立浦和では評定が180点、特別活動120点、その他60点と、特別活動とその他を合わせた配点が評定と同じ配点になります。
この特別活動とその他の中身や、評価基準の詳細がわからないことが受験生からすると悩ましいところですが、そこまで合否に影響はないと推測されます。実際には学力検査と9教科の内申点が重視されています。
私立の併願受験では、事前に合格可能性について相談できる
――次に私立高校の受験についてお聞きします。埼玉は合格可能性について事前に相談できるそうですが。
松田:埼玉では、私立高校の合格可能性について事前に高校に相談することができます。中学の通知表の写しなどを持参し、受験生と保護者は、夏から冬にかけて私立高校と個別相談をします。各学校で設けている基準に現時点で達しているかなどを高校側から教えてもらうことができます。
こういった事前の個別相談がないのは慶應志木、立教新座、早稲田本庄の3校のみです。難関私立の付属校では事前相談がないということですね。
受験生からすると、当日一発勝負の受験は不安ですから、個別相談の時点での合格可能性を知ることができるのはありがたい制度だと思います。
首都圏のその他都県では、私立の併願校は内申点で合格していくので、内申点が高い生徒が有利になります。一方、埼玉は内申点だけでなく、部活動や生徒会活動などの学校活動や資格取得をはじめとする学習の実績などの基準も設けている学校がほとんどです。
また、東京都の私立高校の中には、中高一貫校で高校募集を停止している学校もあり、特に女子の上位層は受験できる私立高校の選択肢があまり多くありません。埼玉は中学校を設置していても、高校から入学ができる学校が多いのも特徴でしょう。
※編集部注:内容に不正確な記述があったため修正しました。
公立でも多様な専門学科・コースが設けられている
――埼玉の高校の特徴としては、多様なコースが設置されていることも挙げられます。
松田:公立高校でも外国語コースや理数科を設けている学校は多いですね。外国語コースがある公立は8校で、コロナ禍では海外が遠く感じられたせいか倍率は低迷していましたが、2024年度は人気が復活しています。
大宮光陵の外国語コースの倍率は2022年度が0.75倍、2023年度が1.08倍、2024年度が1.15倍と徐々に上がってきています。行動制限が撤廃された中で、海外へ行くチャンスも増えてきたので、今後も人気が続くと推測できるでしょう。
一方で、理数科は例年、堅調な募集状況となっています。大宮は毎年2倍を超えます。今年の市立大宮北は1.81倍と高い倍率です。理数科は募集人数が少ないため、倍率が高めに出る上に難度も高い入試になりますから、志望する場合はきちんと対策をする必要があります。
私立高校ではコースによって、偏差値が異なるところがいくつかあります。浦和実業、浦和学院、大宮開成は幅広い偏差値帯に対応していて、併願優遇制度においてもコースによって、内申点や北辰テストの偏差値の基準が異なります。
ちなみに、中学受験ではコース再編があると志願者が増えますが、高校ではあまり影響が大きくありません。浦和麗明、開智はコースを再編しましたが、志願者の大幅な増加にはつながっていません。
今後は埼玉の公立高校の統廃合が進むので、地域によっては進学する公立高校の選択肢が減ることもあります。そうなると、その周辺の私立高校の難易度に変化が出てくると推測できますから、注目していきたいですね。
埼玉の受験生が東京の高校を意識するケースも多くなるでしょう。栄光ゼミナールは広域な高校の情報を有しており、的確に受験校選びのアドバイスができます。生徒たちの希望を叶えられるように入試に向けた指導を行い、全力でサポートしていきます。