Point1キャッチ

――しかし、学業とスポーツの両立を不安視する親もいると思います。

中室 実はそれについても「週1、2回のスポーツは、週に30分程度テレビやスマホを見る時間を減らす」という研究結果があるのです。経済学で「時間配分の代替効果」と呼ばれるもので、スポーツに費やす時間と代替しやすいのは能動的な学習の時間ではなく、テレビやスマホのような受動的な活動の時間であることを示しています。

 何より、スポーツを通して2点目の「リーダーになる」経験が積めれば、より効果的です。こちらは米カリフォルニア大学のピーター.クーン教授の研究が分かりやすいでしょう。40万人の高校生を対象とした大規模調査から、「高校時代にリーダーシップを発揮した経験がある人は、そうでない人に比べて11年後の収入が4~33%高くなる」ことが判明しています。

非認知能力を伸ばす意外な習慣とは何か?

――では、3つ目の「非認知能力」とは何ですか?

中室 学力テストで測定できない、リーダーシップや忍耐力、責任感、社会性といった能力のことで、その重要性を強調するエビデンスが近年、多く蓄積されています。経団連の調査(2018年度)では、企業が新卒採用に当たって特に重視する点のトップは「コミュニケーション能力」でした。

 また、米国で上位5%のIQ(認知能力)の子どもたちを、1920年代初頭から追跡した「ターマン・サーベイ」という調査では、18~75歳という長いスパンで見た場合、非認知能力と将来の収入の関連が最も大きくなるのは、40~60歳という結果が出ています(図表1)。非認知能力はIQが高くても重要であり、収入格差と密接に関わっているということです。

[図表1]非認知能力と将来の収入の関連

 この非認知能力を伸ばすには、音楽や美術といった芸術に触れることも重要です。美術館で絵画を鑑賞する習慣がある子どもほど、他者への寛容性が高く、批判的思考力に優れているというエビデンスもあります。

※次回「科学的根拠で子育てをする親だけが知っている勉強が苦にならない方法とは?」は9月16日公開です。

科学的根拠で子育て書影

『科学的根拠 (エビデンス)で子育て ――教育経済学の最前線』 ダイヤモンド社

わが子の“将来の収入”を上げるには? 国内外のさまざまなエビデンスを検証し、社会に出てから役立つ教育とは何かを問うた一冊。