SAPIX小学部の公式サイト
出典: SAPIX小学部の公式サイト

SAPIXの入室のハードルは高いのだろうか

 圧倒的な合格実績を上げるトップ塾、SAPIX。他の大手塾の入塾テストは基本、無料で受けられるが、SAPIXの入室テストは3,300円かかる。そこからしてもまず、敷居が高い。さて、このトップ塾の入室テストに関してはさまざまな噂がある。

 中高一貫校の関係者がこう話す。

「SAPIXは入室テストでセレクションをしているから合格実績がいい」

 また、中学受験生の保護者がいう。

「SAPIXの入室テストは難しいから、個別指導塾に通って準備している家庭もあるそう」

 実際、SAPIXの入室テストはどのような難易度か。拙著『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)の中で、SAPIXの広野雅明教育事業本部長はこうコメントしている。

「8割、9割は合格します」

 何度も入室テストを受験しても合格しないのは、海外在住歴が長いなどの理由で日本語の基礎的な読み書きの習得が遅れている生徒たちだ。要は公立小学校の授業についていける生徒なら、確実に合格する難易度なのだ。それなのになぜ「難しい」という説が広がるのか。

 まず、先に紹介した中高一貫校の関係者のように「入塾の段階でセレクションをしているから合格実績が高い」という誤解があるのではないか。

 しかし、SAPIXの2023年の合格実績を見ても、6,730名のうち、男子御三家合格者は開成(偏差値72)274名、麻布(68)が197名、武蔵(65)が61名。女子御三家は桜蔭(72)が197名、雙葉(67)が51名、女子学院(70)が149名。合計929名だ。つまり御三家に合格するのは全体の13%程度なのだ。

 一方、中堅校の合格数も多く、男子校の東京都市大学付属(53)は381名。女子校の恵泉(55)は108名。中堅校を目指す生徒もたくさん通っている。要は幅広い学力層の生徒がいるのだ。

※偏差値はすべて四谷大塚の「2023年度入試結果のAライン80偏差値」(2月1日受験)

大手でもっともハードルが高いのは四谷大塚

 さて、他の四大塾の入塾テストについても触れていこう。大手塾でもっとも入塾テストのハードルが高いのは四谷大塚だ。

 2人に1人が合格できる。四谷大塚は全国統一小学生テストが入塾テストの代わりになることもあるが、このテストで偏差値50以上が目安になろう。

 理由としては、四谷大塚のテキスト「予習シリーズ」は偏差値50前後の中堅校以上を狙う層を対象にしていると推測されるからだ。一定以上の学力がないとこのテキストを使いこなせないから、ハードルを設けるわけだ。

 ただ四谷大塚の場合、入塾テストに不合格でも、希望すれば塾が合格するまでフォローしてくれる。面談の時に「どこがウィークポイントなのか」をアドバイスしてくれたり、課題プリントを渡してくれたりする。大手塾は規模が大きいので、幅広い学力層の生徒を受け入れる。そのため、どこも入塾のハードルは特別に高くないのが特徴だ。

入塾が難しいのは少数精鋭の小規模塾

 では、入塾するのが難しいのはどこか。それは少数精鋭で難関校対策に特化した塾だ。授業で扱う内容がハイレベルなので、それについてこれる生徒をセレクションする必要がある。

 たとえばだ。大手教育グループ・Z会ホールディングスの傘下にはいくつもの塾ブランドがある。もっとも大きく展開しているのは栄光ゼミナールであるが、それ以外にも難関校対策の塾を運営している。筑駒・御三家・駒東対策の塾、Z会エクタス。桜蔭・女子学院対策の栄光ゼミナール中野校・最難関女子中学受験専門館だ。これらの塾は授業の内容がハイレベルなので、入塾のハードルは高くなる。

 他では、小規模ながら難関校の合格率が首都圏でトップクラスの個人塾もある。探せばそういう「知る人ぞ知る」エリート塾はいくつもありそうで、そういうところは入塾のハードルが高いと推測できよう。

 そして今、東京で、もっとも入塾のハードルが高いと評判なのがフォトン算数クラブである。定員の数倍の入塾希望者が殺到しているので、ハードルが高くなっている。このあたりの事情についても拙著『中学受験 やってはいけない塾選び』では詳細をレポートしている。

 私が知るかぎり、入塾のハードルが高い塾というのはごく少数なのである。

SAPIXのハードルの高さは入塾してから

 さて、SAPIXの入室テストのハードルは、基本的に高くはないことがわかっていただけただろうか。ではなぜ、SAPIXは合格実績が高いのか。

 SAPIXは、難関校対策に最適化されたテキストやメソッドを開発したことで合格実績が高くなり、「難関校対策に強い塾」というブランドイメージを確立した。そのため難関校、特に最難関校を「本気で狙う層」がまず最初に検討する塾になっている。それゆえ、幅広い層の生徒を受け入れる一方で、学力もモチベーションも非常に高い層が、毎年、たくさん入ってくるからだ。

 SAPIXはハードルが高い塾であるのは確かだ。それは入塾するのが難しいのではなく、入って以降が大変だからだ。

「説明会で、家庭での学習が中心になるから親御さんのご負担は大きいといわれました。生徒が授業についていけずに辞めることはない、保護者がついてこれずに辞めていくとも。入塾を希望されるなら覚悟が必要ですとのことでした。わが家は共働きでないとやっていけないので無理だと判断して諦めました」(2023年にSAPIXの説明会に参加した保護者)

 この「親が頑張る」覚悟があるか否かがSAPIXの入塾のハードルなのだ。「なにがなんでも御三家。子どもを御三家に入れるためなら親は犠牲を払う」という覚悟を持った保護者の子どもが、毎年、大量に入ってきて、優秀なテキストやメソッドで鍛え上げられるから、SAPIXは合格実績が出せるのだ。

 御三家合格者の保護者にインタビューしていても、SAPIX生の保護者と他の大手塾のそれだと温度差がある。SAPIXから御三家に進学する生徒の保護者の多くは、保護者が小学3年の2月の段階で「なにがなんでも御三家」という強い意思を持って入塾させている。

 一方、他の大手塾から御三家に進む保護者は「御三家にはこだわっていなかった。学力に合った学校でいいと思っていた」という程度ののんびりしたモチベーションだ。

 たとえば、2023年に日能研から御三家に合格した生徒の母親はいう。

「公文で学年より先を学習していたし、本も読む子だったので、中学受験はどうにかなると思って日能研に入れました。塾から御三家のある中学を薦められ、文化祭を見学し、本人が『この学校に行きたい』と言い出したので、小学6年の夏ぐらいからは親子で頑張りました」

 この保護者に「SAPIXに入れようとは思わなかったんですか」と訊くと、「SAPIXやグノーブルは親が大変だと聞いたので。私が無理をしてまで御三家に入れたいわけじゃなかった」と返ってきた。

 SAPIXにハードルの高さがあるとしたら、それは入塾テストではなくて、「親が子どもの学習のフォローをやり切る覚悟」であろう。それを読み違うと苦戦することになるだろう。

 ほとんどの塾にとっての入塾テストは、小学3年の2月時点の学力を測ってクラス分けに利用するためのもので、決して生徒をセレクションするものではないのだ。

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