2025年度の都立中応募者数は2010年度から40%減!

 都立中高一貫校(以下、都立中と表記します)は2005年度に白鷗高等学校附属中学校開校を皮切りに、2006年度に小石川中等教育学校・両国高等学校附属中学校・桜修館中等教育学校、2008年度に立川国際中等教育学校・武蔵高等学校附属中学校、2010年度に富士高等学校附属中学校・大泉高等学校附属中学校・三鷹中等教育学校・南多摩中等教育学校が開校して現在の10校が出そろいました(以下、学校名の「高等学校附属中学校」「中等教育学校」は省略します)。

 2005年度に第1期生として白鷗に入学し、初めて中高一貫教育を修了した2011年春の卒業生の中から、東京大学合格者5人を輩出したことは、「白鷗ショック」と呼ばれ教育業界の話題を集めました。

 しかし、都立中の応募者が減少しています。白鷗開校年度(2005年度)の一般枠応募者数は1校だけで2,054人にのぼりましたが、2025年度の一般枠応募者数は640人でした。

 では、10校が出そろった2010年度からの応募状況をみてみましょう。

【図1】都立中応募者数(一般枠)と都内6年生数の推移

【図1】都立中応募者数(一般枠)と都内6年生数の推移
※都立中応募者数(一般枠)は東京都教育委員会「東京都立中等教育学校及び東京都立中学校入学者決定応募状況」、小学6年生数は「学校基本調査」をもとに東京個別指導学院が作成しています。

 少子化が原因という声もありますが、実は東京都内に関しては2025年春の公立小学校卒業見込み者は、【図1】の通り、10校がそろった2010年春よりも約4,000人増加しているのです。一方、2025年春入学の応募者数(一般枠)は、2010年度と比較して、約57%に減少しています。応募者数が最多であった2013年度は1万人を超えていましたが、2025年度は5,644人と6,000人を大きく下回りました。

 また、2013年度には都立応募率は10.3%と、都内公立小学生の10人に1人以上が出願していたのですが、2025年度には5.5%と18人に1人程度です。令和7年度には公立小学校の児童数が1学級35人になりましたから、1学級に都立中の応募者が2人もいないというイメージです。

 つまり、都立中応募者数の大幅な減少は、少子化による小学6年生人口の減少が原因ではなく、都立中を進学先候補として選択する児童(および保護者)の割合が大幅に減少した点にあるのです。

 では、どこに原因があるのでしょう。

2014年度に何が起きたのか

【図2】のように、都立中の応募率のピークは2013年度で、2014年度以降は減少し続けています。一方で首都圏の国私立中の受験率は2014度に底を打ち、以後概ね上昇傾向に転じました。この理由は以下の2点であると考えられます。

 1点目は学費面です。首都圏の国私立中受験率を大きく左右するのは、東京都の小学6年生の動向です。その東京都では2014年度以降の入学者から、新たな「就学支援金制度」へ移行しました。新制度では、国公私立を問わず、高校の授業料支援として、年収910万円程度未満の世帯に「就学支援金」を支給する制度です。

 これにより、中学から私立中に通わせた場合と、公立中から都立高に進学した場合との間の「6年間のコスト差」が以前より小さくなりました特に保護者からすると、費用面での都立中高一貫校の圧倒的なメリットが薄れたわけです。

 東京都ではさらに、2017年度に年収760万円未満を対象に私立高校授業料の実質無償化、2020年度には年収910万円未満までその対象を拡大、2024年度には年収制限自体を撤廃しました。都立と私立の「6年間のコスト差」が縮小し続けた結果、都立中応募者減・私立中学受験ブームに至っていると考えられます。その契機になったのが2014年なのです。

 2点目は教育制度改革です。2014年12月、文部科学省中央教育審議会が「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」と題する答申を公表しました。同答申では「高等学校基礎学力テスト(仮称)」を2019年度から、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」を2020年度から導入する案や、各大学が個別に行う入学者選抜の改革の方向性などが示されました。

 特に「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」は従来の大学入試センター試験から大きく変わるものとされました。この改革案の議論の過程で、不透明な部分や問題点も表面化してきました。このことから「新入試制度への対応力は公立校よりも私立校の方が高いのではないか」という期待が集まり、首都圏国私立中学受験率(オレンジ)は2014年度で下降傾向が底を打ち、2015年度以降は上昇傾向に転じています。

【図2】首都圏国私立中受験率等の推移

【図2】首都圏国私立中受験率等の推移
※首都圏国私立中学受験率(オレンジ)首都圏模試センターの推計です。都立中応募率(赤)は、「学校基本調査」による都内公立小学校卒業見込み生を分母とし、都立中応募者数(一般枠)を分子とした比率です。都内小6生国私立中進学率(緑)は、東京都教育委員会「公立学校統計調査報告書【公立学校卒業者の進路状況調査編】状況別卒業者数(小学生)」によります。公立小卒業者数を分母とし、分子を「国立進学者」「私立進学者」「都外中学校等への進学者」の合計とした比率を都内小6生国私立中進学率(緑)としています。東京個別指導学院が作成。

公立中と私立中 中学受験ブームの到来

 都立中に限らず公立中高一貫校は、私立中に通わせるほどの経済的な余裕のない家庭の子どもでも、私立中と同様に6年間を通じて一貫した教育を行い多様な教育ニーズに対応する選択肢として誕生しました。実際、都立中では質の高い教育やカリキュラムに柔軟性を持たせ、教科によっては難易度の高い教材を使用し、先取り教育を提供し、様々な経験を積む機会を用意し、社会で活躍するリーダーの育成を目指しています。その成果のひとつが「白鷗ショック」だったわけです。

 しかし、2015年度以降の中学受験ブームの到来により、私立中同士の競争も激しくなっていきました。私立中は、公立中よりも予算を柔軟に使えるため、国際教育、ICT教育、探究学習、STEAM教育、PBL型授業など、時代の変化に合った独自の教育プログラムや設備投資を迅速に進めることができます。都立中も、実は上記のような取り組みをしているのですが、公立であるがゆえに、改革に向けての予算面やスピード面では、私立中の方に軍配が上がってしまいます。

 特に、コロナ禍の頃の対応力は学校により差異はあったものの、概ね私立中の方が都立中よりも対応が早かったように思います。

 また、コロナ禍以降の児童・保護者の価値観が変わってきているように思います。都立10校とも、それぞれ特徴があり魅力的な点がありますが、私立中のように、多様化した価値観に即対応し、教育内容や教育方針を尖らせたり、際立たせたりすることができません(または時間がかかります)。

 加えて、(一部改修している学校もありますが、)都立各校とも開校から15~20年経過しており、近年新改築した私立中との校舎比較では、有利とはいえません。さらに、HPの更新やSNSでの発信、学校説明会・見学会の頻度は、私立中の方が圧倒的に多く、都立中の魅力の発信力が私立中に対して低い点も見逃せません。

 これらにより、私立中の方が「面倒見が良い」「先進的な教育が受けられる」というイメージが定着し、受験生や保護者からの評価が高まり、さらに私立中人気に拍車がかかっていったように思います。

私立中受験ブームの継続の影響

 首都圏の中学受験率が上昇し、過熱化に伴い、塾に通いだす学年も早期化しています。多くのご家庭が、より早期から私立中学受験向けの学習に取り組むようになりました。

 最難関中では、以前から論理的思考力や判断力、表現力を問う入試問題を出題してきましたし、これまでは、知識量やどれだけ解法パターンを知っているか・使えるかが重視される傾向があった二番手中学でも論理的思考力や判断力、表現力を問う問題や教科横断的な問題の出題が目立ってきています。

 このような中学を目指す受験生の中には、(都立中の適性検査問題に慣れる準備は必要なものの)都立中受検を「併願先」として位置づけている受験生も存在します。都立中では近年100人前後の入学辞退者(2025年度は99人、2026年度は108人)を出しています。また【表3】のように欠席率は4.5%にのぼっています。これは私立中第一志望組が一定数存在することを裏付けています

【表3】2025年度都立中の選抜結果

【表3】2025年度都立中の選抜結果
※東京個別指導学院が作成。募集人員と入学手続き数は「令和7年度 東京都立中等教育学校及び東京都立中学校入学者決定入学手続状況(一般枠募集)」。応募者数は「令和7年度 東京都立中等教育学校及び東京都立中学校入学者決定応募状況(一般枠募集及び特別枠募集)」で、どちらも東京都教育委員会発表によります。欠席数は応募者数と受検数の差、欠席率の分母は応募者、辞退数は募集人員と入学手続き数の差です。欠席+辞退率の分母は応募者数、分子は欠席数と辞退数の和です。

受験生・保護者は「早く合格を手にしたい」

 近年の私立中学入試のトレンドは「早期決着志向」(もちろん後半日程まで受験を続ける受験生も存在します)です。その影響もあり、年々「午後入試」が増えていきました。2月1日に午前・午後、2日も午前・午後と受験する受験生も少なくありません。そして、私立中の合格者発表のほとんどは、試験当日か翌日です。「早く合格をもらいたい」「早く進学先を決めたい」という受験生・保護者の気持ちに応えようとするものです。

 これに対して、都立中(一般枠)は、検査日が2月3日ですが、合格者発表日は2月9日と、受検生・保護者にとっては「待たされる」日数が長いのです

 2月1日・2日に都立中より志望度が高い私立中の合格を勝ち取った受験生の多くは3日の都立中検査は欠席します。3日に都立中を受検しても、概ね2月5日くらいまで続く私立中受験で都立中より志望度が高い私立中の合格を勝ち取った受験生は、都立中の入学を辞退することになります。こうして、欠席・辞退率が10%を超える都立中が出てくるのです。

1校しか受検できず、不合格者の方が多いという現実

 都立中の適性検査は、知識をどれだけインプットしているかではなく、論理的思考力や判断力、表現力を問うもので、一般的な私立中の教科型(国算、国算理社)とは異なる対策が必要です。この対策を家庭学習のみで行うとすると、受検生や保護者にとって大きな負担となり、結局一定程度の期間は都立中対策を行うコースを設置している塾などに通う必要が出てきます。

 また、都立中の合格者選抜には、適性検査だけでなく、小学校5年生・6年生の9教科の報告書点(内申点)も重要な要素となります。都立中の中には1,000点満点中300点のウエイトをかけている学校がありますので、私立中のみ受験する生徒とは異なり、小学校でもまんべんなくできていなければなりません。この点に負担を感じ、「塾に通って対策しなればならないのならば、報告書を気にせず、併願もしやすい私立中受験対策をした方が良い」と感じる方もいるでしょう。

 そして、受検準備を重ね、努力してきても、都立中10校の検査日は2月3日に統一されているので、他の都立中との併願ができません。応募者数が減少傾向にあるとはいえ、都立中は高倍率(2025年度の一般枠応募倍率は3.60倍)で、不合格者の方が多いのです。私立中を併願していなければ、都立中が不合格だった場合、地元の公立中学校に進学することになります。中学受験熱の高まりの中で、多くの家庭がこの「地元の公立」への進学をリスクと捉えています。

 これは筆者の個人的な感覚ですが、「子どもに、失敗してもよいからどんどん挑戦させたい」という保護者と、「子どもに失敗させたくない」「リスクを負う経験自体させたくない」という保護者に分かれてきているように思います。それぞれのご家庭の方針があるのですが、後者のタイプの保護者が増えてきているように思います。後者の考え方だと、都立中受検は不合格リスクの高い挑戦となります。

 リスク回避のため、都立中の適性検査問題に似せた問題を出題する「適性検査型」入試を実施する私立中を受験する都立中志望者は少なくありません。中には特定の都立中の出題傾向に合わせた「適性検査型」試験を実施する私立中もあります。都立中の予行演習として併願する場合も多いようです。

 しかし、都立中志望者の減少に伴い、このような「適性検査型」タイプの試験を実施する私立中学数も2021年入試より減少傾向に転じています。

【表4】首都圏の「適性検査型」入試実施校数の推移

【表4】首都圏の「適性検査型」入試実施校数の推移
※首都圏模試センター資料をもとに東京個別指導学院が作成。実施校数には「思考力型入試」も含みます。

「適性検査型」入試実施校減少の理由は、先述のように都立中応募者減による「適性検査型」入試応募者減の他に、手間暇かけて問題を作成した割には歩留まり率(合格者の入学率)が低いという事情も(私立中によっては)あるようです。

 このように、都立中の応募者減は、単一の原因ではなく複数の要因が複合的に作用した結果といえます。これは、都立中が誕生した当初の社会的背景や価値観、子どもや保護者の意識が変化していることの表れであり、教育の多様化が進む中で、子どもや保護者がより多様な選択肢を比較検討するようになった結果であるといえます。

応募者が減って、都立中は易化したのか?

 応募者数減少傾向が止まらない都立中ですが、2010年度から2025年度にかけて偏差値は10校平均で9ポイントも上がっています。そして、難易度はここ数年高止まりしています。決して易しくはなっていないのです

【図5】都立中10校の合格可能性80%偏差値の推移

【図5】都立中10校の合格可能性80%偏差値の推移
※2025年までは首都圏模試センター「中学入試結果偏差値一覧」(偏差値は女子の偏差値)。2026年は首都圏模試センター「女子11月版2026年中学入試予想偏差値(合格率80%)一覧」をもとに東京個別指導学院が作成。

 また、東京都教育庁は2025年10月23日に「中学校において子供一人ひとりの状況に応じたきめ細かな教育を実施するため、中学校及び中等教育学校第一学年の募集人員について、段階的に減を行う。なお、令和9年度入学者決定においても、段階的に募集人員の減を行う予定である」と発表しました。

 これにより、特別枠募集・海外帰国・在京外国人生徒枠を含む都立中10校の総募集人員は、2025年度の1,640人から2026年度は1,558人へと5%減ります。文部科学省の中学校35人学級への方針に沿った形で、徐々に、都立中10校の募集人員は1,435人(2025年度の12.5%減)になるように調整されると推測されます。募集人員減は合格者数減を意味します。このため、(各種模擬試験の志望動向から、2026年度も10校合計では都立中応募者数が減少しそうですが)極端な難易度低下は生じないのではないでしょうか。

 ある都立中の元校長先生に伺ったところ「総応募者が9万~10万人のころは”受検すれば、もしかしたら合格するかもしれない”という層が多かった。6年生の冬休みから少し勉強するだけでは合格できず、合格するためにはそれなりの対策・準備が必要だとわかり、応募者は減っていった」「しかし、2025年の一般枠応募倍率は3.6倍あり、これでも十分高倍率で、3倍程度で良いと感じている」との返答がありました。

 確かに2025年度入試の男女御三家中の実質倍率は、開成2.7倍、麻布2.2倍、武蔵2.8倍、桜蔭1.8倍、女子学院2.3倍、雙葉中2.9倍と、全て3倍を切っていますが、少数精鋭による入試で、難易度は下がっていません倍率と難易度は必ずしも一致しないのです。

「国立・私立を含めて様々な中学を検討して、“都立中の中でも◎◎中が気に入った。ぜひ入学したい”と決意して努力を積み重ねてきたような児童にぜひ挑戦してほしい」と前出の元校長先生は話します。

都立中受検は「コスパ」「タイパ」が悪いのか?

 都立中を第一志望校とする場合、受検準備に費やす時間面・労力面・費用面の割には不合格になるリスクの方が高いのは確かです。

 しかし、都立中受検のゴールは検査日ではありません。人生の通過点のひとつに過ぎません。選抜結果がどちらであっても、それまでの過程での学びや経験は無駄になることはないのです。

 適性検査対策を通じて鍛えた、①グラフや表を読み取り、条件を整理して物事を筋道立てて考え、根拠をもって答えを導く「論理的思考力」、②長文や資料を正確に理解し、筆者の主張や要点を把握し、与えられた情報を整理する「読解力」、③自分の考えや理由を文章でわかりやすく表現する「表現力」、④複数の情報を組み合わせて考察して解答を導く「問題解決能力」などは、大学受験や社会に出てからも必要な力で、保護者世代よりも今後必要とされる力です。これらの力は私立中の入試でも問われていますが、より強く意識して出題しているのが適性検査問題だといえます。

 そういう意味では、都立中受検は決して「コスパ」や「タイパ」が悪いわけではないでしょう。