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医療・介護 大転換

保育支援は介護と同様、企業の力に頼らざるを得なくなった

浅川澄一 [福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)]
【第61回】 2016年8月31日
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高齢者ケアの成功事業を採りいれた
「企業主導型保育所」が登場

 介護保険が作られ、要介護高齢者への支援制度はこの16年の間に急速に向上した。ケアのレベルも、福祉先進国の北欧諸国に相当程度まで追い付きつつある。大規模な病院・施設から地域の小規模な在宅サービスへ転換させるという路線も確立してきた。

 これに反して、保育の分野は大きく立ち遅れてしまった。介護と保育の支援サービスは共に、共働き家族が仕事を続けるには欠かせない仕組みである。小さな核家族だけでは十分な対応は難しい。社会の手助けが必要とされる点では変わりがない。家族労働から「社会化」への道筋が必要だ。

 保育には「保育(育児)保険」は存在しない。そのため、保育を支援する制度は脆弱のままだ。保険料制度がないため、国や自治体からの税金に頼らざるを得ない。注がれる税が、需要を満たせない。

 日本は家族支援の予算が欧州諸国に比べかなり少ない。保育園不足による待機児童問題は、40年以上前から起きている。

 そこへ、やっと高齢者ケアの「成功事業」を採りいれた保育政策が登場してきた。画期的な試みと言えるだろう。「企業主導型保育所」である。この4月からスタートした。

 なにしろ、ネーミングからして保育関係者の心情を逆なでする。「保育は慈善活動。利益第一の企業が手掛けてはいけない」という「神話」に拘る関係者が、専門研究者を含めて絶対的に多数を占めるのが保育業界である。

 そんな時代遅れの風潮を蹴散らすかのような思い切った命名と言えるだろう。実は介護保険の導入時にも、「介護は保険制度になじまない。税ですべて賄うべきだ」「企業参入はできるだけ制約すべき」という議論が旧来型左翼陣営からあった。

 介護保険が画期的と言われるのは企業に事業者として門戸開放したことだ。自治体と社会福祉法人任せだった担い手に、企業を加えることで旺盛な需要に応える仕組みを作った。

 認知症ケアの切り札と言われるグループホームをはじめ、デイサービス(通所介護)やヘルパー派遣の訪問介護、そして有料老人ホームまで呼び寄せて特定施設の新名称で組み込んだ。いずれも企業が主役となっている。

 自治体と社会福祉法人だけに運営を任せていては、国民の4人に1人が高齢者となり、その2割近くが介護を必要する絶対的な需要増に応じきれない。そのための政策転換であった。一般企業に普通のサービス業として参画してもらうことで、供給力が一気に高まった。

 それでも、住まい系のいわゆる「施設」需要に供給が追い付かなくなった。特別養護老人ホーム(特養)の待機者は50万人を越えてしまう。そこで、住宅事業の所管である国交省を誘い込んで新たな事業を創出せざるを得なくなる。誕生したのが、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)である。

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浅川澄一 [福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)]

あさかわ・すみかず/1948年2月東京都中野区生まれ。東京都立西高校から慶應義塾大学経済学部に。1971年日本経済新聞社に入社。小売り・流通業、ファッション、家電、サービス産業などを担当。87年に月刊誌『日経トレンディ』を創刊、初代編集長を5年間勤める。93年流通経済部長、95年マルチメディア局編成部長などを経て、98年から編集委員。高齢者ケア、少子化、NPO活度などを担当。2011年2月に定年退社。同年6月に公益社団法人長寿社会文化協会常務理事に就任。66歳。

 


医療・介護 大転換

2014年4月に診療報酬が改定され、ついで6月には「地域医療・介護総合確保推進法」が成立した。これによって、我が国の「医療」「介護」大転換に向けて、第一歩が踏み出された。少子高齢化が急速に進む中で、日本の社会保障はどう大きく変革するのか。なかなかその全貌が見えてこない、医療・介護大転換の内容を丁寧に解説していく。

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