シシリアンルージュとルッコラのスパゲッティ

 わたしは唐澤さんの意見に100%同意するわけではないが、たしかに「鹿嶋パラダイス」の野菜はおいしかった。ニンニクの風味はあくまで軽く、口のなかに残ることなく消えていき、トマトの味は太陽を感じさせる鮮烈さだ。

「働きながら毎年、海外のベストと評価されている生産者、生産地を廻りました。イベリコハムの生産者生産地では町で全てを一貫してどんぐり畑の管理から豚の管理、屠殺、解体、塩漬け、熟成、販売、バルの経営までやっているところに感銘を受けました。イタリアの水牛モッツァレラチーズ農家、パルミジャーノ・レッジャーノ農家も同じです。何よりそこに働く人々の目の輝きに心を打たれました。みな無垢な瞳を輝かせながら自分のやっている仕事と自分たちの商品をドヤ顔で自慢するんですよ。彼らは食べ物を一貫して加工しているだけじゃなくて『思いの一貫性』があるんです」

 世界から評価される生産者には「思いの一貫性がある」と教わった唐澤さんは2012年には鹿島神宮の参道に農産物と加工品の販売、レストランを兼ねた「樂田家」を開店する。飲食店と農園というイメージは農園を開いた当初からあったという。

「鹿島神宮の参道沿いに出店した時は参道もよく見るシャッター商店街で、まわりから結構反対されましたけど、地域活性という点で貢献できれば、と決めました。それに鹿島神宮の参道のほうがわかりやすいでしょ? それに思いの一貫性、おいしいものを感じてもらうには場が必要でしょ。でも、おいしいものをつくってみんなで食べるのはハッピーじゃないですか」

 自然栽培農家なら他にもたくさんいる。唐澤さんのユニークさは〈自然栽培〉のようなストイックさと〈パラダイス〉という軽さを両立させているところだ。自然栽培農家にありがちな思想の偏りも感じない。その原動力が「おいしいものが食べたい」という純粋な思いだからだ。

 鹿嶋パラダイスの目標は「この世の中にパラダイスをつくる」こと。パラダイス=楽園には酒が必要、ということで有名な千葉の酒蔵、寺田本家に米を持込み、オリジナルの日本酒もつくった。そして、ついには自前で酒造免許まで取得し、ビール造りにまで乗り出したのである。

すべて自家製、原材料にこだわった
「農家が作るビール」の味とは?

アンバービール。アンバーにはしてはロースト感は控えめ

「ビールは最初からつくりたかったんです。当時の日本にはドイツみたいな本当においしいビールがなかった。だからこれもやっぱり自分が飲みたい、造りたい、と」

 やると決めたら徹底的だ。各地のクラフトビールを飲みまくり、東京の醸造所でビールづくりを学んだ。当初、お店ではそこでつくったビールを提供していたが、ついに発泡酒製造免許を取得し、店も自ら改装し、ビール醸造所併設の店舗「Paradise Beer Factory」として改めてスタートを切った。

「ホントに小さな醸造所ですよ(笑)。茨城県ではマイクロブリュワリー第1号です。まずは基本中の基本である水を探したんです。水は命ですからね。今は鹿島神宮の御神水を使用しています。日本では硬度が一般的に低いところが多いのですが、僕たちの作るエールビールは硬度があったほうがおいしいビールがつくれるんです。鹿島神宮の御神水は神聖な水であるだけでなく、調べた中でも一番硬度が高かった(95度)。なんかご利益ありそうじゃないですか(笑)」

 年内には自家製のビール麦での製造での製造を始める予定で、ホップを生産するためには「Hopグリーンカーテンプロジェクト」を立ち上げた。このプロジェクトは市民にグリーンカーテンとしてホップを育ててもらうもので、収穫したホップはビール券に交換されるので、自分が栽培したホップでつくられたビールが飲めるというわけだ。瓶のラベルにはロット毎に生産してくれた方の顔写真をいれていく計画もあるとか。