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ニューロビジネス思考で炙り出せ!勝てない組織に根付く「黒い心理学」 渡部幹

子どもを週5日預けっぱなし!マレーシアの仰天育児事情

渡部 幹 [モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授]
【第58回】 2016年9月14日
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子どもとは週末だけ一緒に!
マレーシアの仰天育児事情

 先日、マレーシアの新聞記者と話をしていて、驚くような話を聞いた。

 王族や石油王など、超富裕層は別として、マレーシアの富裕層家族は、たいてい夫婦共働きである。ここ数十年の経済発展の恩恵を受けて、マレーシア全体の所得も生活水準もずいぶん上がったが、物価や生活費の高騰も激しい。特に教育費の値上がりはすさまじく、子どもの学費のために富裕層でも共働きするのが、むしろ「普通」となっている。

 そんな、富裕層夫妻はメイドを雇っている場合が多い。家事はもちろん、子どもの学校への送り迎え、さまざまな行事参加の代行など、かなり広範囲の仕事をメイドに任せている人々もたくさんいる。マレーシア近隣の国からくる労働力はまだ安いので、そうすることが可能なのだ。つまり、家事一切の時間を仕事に当てたほうが、メイド代を支払ってもまだ経済合理性があるというのがマレーシアの状況である。

 メイドを雇ってる日本人もある程度いるが、大抵の場合、掃除を中心とする家事のお手伝いがほとんどだ。上記のように広範囲な仕事をさせるのは、マレーシア人の富裕家族である。

 筆者が聞いて驚いた話というのは、最近になってその富裕層の子育ての仕方に劇的な変化が見られることだ。もともと、メイドに学校の送り迎えをさせたり、宿題を見させたりするマレーシアのやり方には、筆者は違和感を覚えていたが、今回聞いた話は、それどころではなかった。

 平日は子どもを他の家族に預けて、学校から食事から寝る場所まで、一切合切を任せ、仕事のない週末だけ、子どもと一緒に過ごす富裕層夫妻が増えているというのだ。週末だけ家族がそろう「週末家族」だ。主に中華系のマレーシア人がそうしているという。

 日曜の夜に、子どもの面倒をみてくれる家族のもとへ、子どもを預けに行き、翌朝から金曜夜までは、夫婦だけで過ごす。子どもは、預けられた家から学校に通い、食事もし、風呂に入り、寝る。その間の学校行事や授業参観等、親がやるべきことは、お金の支払い以外、すべて受け入れた家族の親が行うのだ。

 これまでは、子どもの面倒が見られないほど忙しい夫婦は、祖父母や他の血縁に預けるのが常だった。中華系はその傾向が強く、中国本土でも、親ではなく、祖父母が子どもの世話をみることが多い。近年では、両親は都会に住む共働きで、その2人に子どもができると、田舎にいた祖父母が都会に出てきて同居し、着替えや食事から、保育園の送り迎えまで、徹底的に面倒を見るもの珍しいことではないそうだ。こういった傾向は、戦後から高度成長期にかけての日本でも起こっていた。幼少期は、おじいちゃんおばあちゃんと過ごした時間のほうが長かったという中高年の方も多いと思う。

 このように、どんなに両親が忙しくても、子どもの面倒を見るのは、血を分けた祖父母や血縁者だった。特に日本を含む儒教ベースの国にはその傾向が強かった。しかし、それらの国も急速に核家族化が進み、両親の代わりに子どもの世話をする血縁者を探すのは難しくなっている。

 その解決策として、日本では核家族の働き方そのものを変えることと、保育園や学童などの行政主導の制度で対応しようとしている。すっかり定着した「イクメン」という概念や、ライフワークバランスが重視されるようになったのも、そういった流れからだ。もちろん、東京都の保育園待機児童問題など、制度の面ではまだまだ追いついていない部分も多い。

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渡部 幹(わたべ・もとき)
[モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授]

UCLA社会学研究科Ph.Dコース修了。北海道大学助手、京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、現職。実験ゲームや進化シミュレーションを用いて制度・文化の生成と変容を社会心理学・大脳生理学分野の視点から研究しており、それらの研究を活かして企業組織にも様々な問題提起を行なう。現在はニューロビジネスという大脳生理学と経営学の融合プロジェクトのディレクターを務めている。代表的な著書に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(共著、講談社刊)。その他『ソフトローの基礎理論』(有斐閣刊)、『入門・政経経済学方法論』、『フリーライダー あなたの隣のただのり社員』 (共著、講談社)など多数。


ニューロビジネス思考で炙り出せ!勝てない組織に根付く「黒い心理学」 渡部幹

この連載の趣旨は、ビジネスマンのあなたが陥っている「ブラック」な状況から抜け出すための「心」を獲得するために、必要な知識と考え方を紹介することにある。社員を疲弊させる企業が台頭する日本社会では、「勝てない組織」が増えていく。実はその背景には、マクロ面から見た場合の制度的な理由がある一方、日本人の持つ国民性や心理もまた、重要な要因として存在する。そうした深いリサーチが、これまで企業社会の中でなされてきただろうか。本連載では、毎回世間で流行っているモノ、コト、現象、ニュースなどを題材として取り上げ、筆者が研究する「ニューロビジネス」的な思考をベースに、主に心理学や脳科学の視点から、その課題を論じていく。あなたは組織の「黒い心理学」を、解き明かすことができるか。

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