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ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一

ミス・ユニバースまで輩出した
下着ショーのモデル

北 康利 [作家]
【第31回】 2016年11月9日
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下着ショーモデルたちの大活躍

 下着ショーはその後も引っ張りだこで、そのために和江商事社内では、今では考えられないような悲喜劇が繰り広げられた。

 犠牲者の一人が、昭和29年(1954年)入社の藤井宏康である。

 就職の内定をもらっていた彼は、3月はじめ、律儀にも大学卒業の報告をしに幸一を訪ねた。すると驚くべき言葉が待っていたのだ。

 「おおそうか、早速明日から来てくれ」

 目を白黒させながら藤井が、

 「郷里の広島に帰りたいと思っていたのですが……」

 と訴えても、

 「今、会社は忙しいんや!」

 と相変わらず強引だ。

 そして藤井を待っていたのは、実にひどい……しかし、考えようによっては幸せな(?)仕事だった。その晩、いきなり会社の屋根裏部屋の寮に寝かされ、翌日から5人のモデルを連れて九州への出張を命じられたのだ。

 藤井は大学時代演劇部だったので、ショーの演出くらい出来るだろうというのである。

 そのまま彼は博多を振り出しに、長崎、佐世保と九州の主要都市を1ヵ月間もショーをして回ったというから驚きだ。

 旅の空でなし崩し的に入社させられるという待遇を受けても退社届けをたたきつけなかった理由が、彼の辛抱強い性格からくるのか、美女5人を連れての旅がまんざらでもなかったからなのかは判然としない。

 一方で、下着ショーのモデルたちの中には、スターダムにのぼりつめドラマティックな人生を歩んだものもいる。

 その代表選手が伊東絹子だ。

 昭和28年(1953年)、伊東は第2代目の「ミス・ユニバース・ジャパン」に選ばれ、同年7月、米国カリフォルニア州ロングビーチで開かれた世界大会に日本代表として出場。見事3位の栄冠に輝いた。

1953年のミス・ユニバース各国代表。上段右から2人目が伊東絹子

 身長164センチ、52キロ、スリーサイズが86、56、92センチというのは、最近の感覚で言えばモデル体型と呼ぶにはややグラマラスな印象を受けるが、当時の日本人女性の平均身長は150センチである。伊東は図抜けて顔が小さく足が長い。日本人離れしたスタイルであった。

 欧米人の身長も今より低かった。写真を見ると、他国のミスたちとの身長差はそれほど感じられない。むしろスタイルは伊東のほうがいいくらいで、堂々たる3位入賞であった。昭和34年(1959年)には児島明子がミス・ユニバース世界大会で優勝しているが、その道筋をつけたと言っていいだろう。

 伊東絹子のこの快挙は、欧米に対してコンプレックスを持っていた日本人にとって大きな希望を与えるものであり、彼女のスタイルの良さを讃え、“八頭身美人”という言葉が流行した。

 伊東はこの後、テレビドラマに出演するなど女優デビューを果たすが、芸能界には未練がなかったようで、フランスに渡って在仏日本大使館の外交官と結婚し、外交官夫人に転身している。

 そのほか、和江商事のモデル出身で活躍したのは、映画女優の団令子や山口富美子(ミス京都)、京藤敦子(ミス・インターナショナル日本代表)、松本千都子(ミス・ユニバース日本代表)など枚挙にいとまがない。

 彼女らはミスに選ばれてから和江商事がスカウトしたのではない。当初は無名だったが、和江商事のモデルとなったことでステップアップしていったのである。幸一が活躍のきっかけを与えた女性は、内田や渡辺たちだけではなかったのだ。

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北 康利 [作家]

きた・やすとし/昭和35年12月24日愛知県名古屋市生まれ、東京大学法学部卒業後、富士銀行入行。資産証券化の専門家として富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長等を歴任。平成20年6月末でみずほ証券退職。本格的に作家活動に入る。“100年経営の会”顧問。松下政経塾講師。著書に『白洲次郎 占領を背負った男』(第14回山本七平賞)、『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』、『吉田茂ポピュリズムに背を向けて』(以上、講談社)、『陰徳を積む 銀行王・安田善次郎伝』(新潮社)、『西郷隆盛命もいらず、名もいらず』(WAC)、『松下幸之助 経営の神様とよばれた男』(PHP研究所)などがある。最新刊は『佐治敬三と開高健最強のふたり』(講談社)。


ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一

ブラジャー。この華やかな商品に一生を捧げた男がいた。戦後京都を代表するベンチャー企業「ワコール」を創業した塚本幸一である。インパール作戦の生き残りという壮絶な戦争体験を持つ彼は、いかにして女性用下着に出会い、その未開市場を開拓していったのか。ベンチャースピリット溢れるその豪快華麗な生涯を、いま最も注目される評伝作家・北康利が描きだす!

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