SPCの連結義務化に向け<br />右往左往が始まる不動産業界ミニバブル期に組成されたSPCを、時価評価して連結化する期限まで、あと1年。不動産各社も対応に迫られる(写真は三菱地所が出資するSPCで開発中の大阪北ヤード)

 不動産業界にとって新たな火種となりそうだ。

 資産と負債をふくらませずに大型開発を行う手段として、不動産業界で多用されてきた開発SPC(特定目的会社)。不動産会社はこれまで、SPCを決算時に非連結とすることが許されていた。ところが、2013年3月期(3月期決算企業の場合)から全面連結が義務づけられる。会計ルールを定める企業会計基準委員会は、早ければ1月後半にも、SPCの連結義務化を決定する見込みだ。

 不動産業界が恐れるのは、連結を義務づけられることで、SPCの損失が表面化することだ。

 SPCの多くは不動産ミニバブル期の06年から07年にかけて組成され、“高値づかみ”を繰り返した。たとえば、三菱地所などのコンソーシアムが06年に落札した大阪北ヤードは、当時の路線価の7倍で落札。07年には東京建物がSPCを通じて中野警察大学校跡地を同8倍で取得した。

 当時SPCが高値で取得した不動産は、その多くが評価減されていない可能性が高い。三菱地所は10年3月期に、新宿の日テレゴルフガーデン跡地、北新宿で再開発プロジェクトを行うSPCの評価減を行ったが、SPCエクイティ損失と減損損失合計で888億円もの特別損失を計上した。しかし、「業界でSPCの評価減を行う体力があるのは三菱地所と三井不動産くらいしかないのでは」と大手不動産幹部は言う。

 いかに損失を出さずSPCを連結するか、すでに各社は手を打ち始めている。

 たとえば東急不動産は「SPCの連結化を見据えた準備措置の一環として」、次のような不動産の組み替えを行った。まず既存のSPCが保有していた六つの不動産を、新しく組成した三つのSPCに10年12月までに売却。含み益がある不動産と含み損がある不動産を組み合わせて売却する時点で、含み損は利益と相殺され消える。この状態で、新たな三つのSPCを連結すれば、損失は発生しないというわけだ。

 目下、SPCを連結する際の正式なルールは決まっていないものの、このやり方が「実態としてSPCを親会社が支配している構造はまったく変わらないにもかかわらず、損失を相殺できることになり、投資家にはわかりにくい」(福島大輔・野村證券金融経済研究所シニアアナリスト)点は否めない。

 また、この方法が使えるのは利益が出る一部のSPCにすぎない。東急のSPCは10年3月期末で62にも及ぶ。東京建物はSPCへの投資残高が本体の自己資本と同等にまでふくらんでいる。そして非連結のSPCには、明らかな高値づかみ案件も多く含まれる。

 今後、これらをいかに“安全”に連結するか。SPC連結義務化に向け、不動産各社の右往左往が始まりそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)

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