アメリカ大統領選挙が投開票され、共和党候補のドナルド・トランプ氏が民主党候補のヒラリー・クリントン氏を破り、当選確実となった。まさかの結果に、日本中が衝撃を受けているが、この連載ではトランプ氏の当落にかかわらず、現在の国際社会の状況を「時代の大きな転換点」と位置付けて論じてきた(連載第134回、第142回など)。その意味では、今回の結果に対して、特に大きな驚きはない。
時代の大きな転換点とは、世界が国境を越えてすべての国が相互依存を深める「グローバル化」から、それぞれの国が『生存圏』をどう確立するかを考える「ブロック化」の時代に変わっていくことだ。ボリス・ジョンソン英外相の登場による「英国のEU離脱」で明らかになってきた大転換は、トランプ氏の米国大統領選勝利で、確実な流れとなったと認識すべきだろう。
そして、それは日本が国際社会の中で、非常に厳しい状況に陥るということを、覚悟すべきだということを意味する。トランプ大統領の登場で「世界のブロック化」が現実化していけば、軍事力も資源も十分に持たない日本は、「極東の一小国」の地位に落ちてしまうリスクが高いからだ。
「生存圏」を確保し
「ブロック化」を目指す世界の新潮流
「生存圏」とは、例えば英国の「英連邦」である。資源大国のカナダ、オーストラリア、南アフリカ、世界で2番目に人口が多いハイテク国家のインドや、マレーシア、シンガポールなど今後最も成長が見込まれるアジアの多くの国、今後「世界の工場」となるアフリカ諸国が含まれる(第142回・p4)。この巨大な経済圏が英国の「生存圏」である。実際、テリーザ・メイ英首相は先週、インドを訪問した。英国がEU離脱後に、英連邦との関係を固めようと動くのは当然のことだ。
一方、米国は「シェール革命」によって世界有数の産油国になり、世界最大の石油の輸入国から輸出国に転じようとしている。そして、米国内で「ものづくり」を復活させ、米国内に360万人もの新しい雇用を生み出すという。米国は、トランプ氏が主張する「孤立主義」に向かっても自立できる「生存圏」を持っているといえる。
また、中国が「一帯一路(One Belt, One Road)」計画を打ち上げて、大陸と海洋の両方で拡張主義を取るのは、12億の人口を賄うための資源を確保するためである(第103回)。これも「生存圏」を固めるための動きである。