富裕層にとって重要な課題の資産運用。そのためにプライベートバンクは大きな味方に。スイス取材経験もある筆者による富裕層のためのプライベートバンク利用術。

 世界の富裕層に関する調査で知られるCapgeminiの「ワールドウェルスレポート2016」によると、日本には100万米ドル以上の投資可能な資産を保有する富裕層が、2015年の時点で272万人存在するそうだ。

 アメリカに次いで世界で2番目に多い。2014年に比べて約11パーセント、リーマンショック直後の2009年と比較すると約1・6倍に増えていることになる。

 富裕層が保有する投資可能資産(居住用資産や収集品、消費財、耐久消費財などを除いた資産)は、6兆5714億米ドルにのぼるという。

富裕層自体も
ニーズも多様化

 かつての日本で「お金持ち」といえば、不動産などの資産を代々相続してきた資産家一族を指すことが多かった。今日では医師や弁護士、プロスポーツ選手、芸術家など専門職の成功者が含まれる。さらにITなどのビジネスで成功した起業家を中心とするニューリッチ、自社のストックオプションの行使で富を得た外資系企業の役員もいる。

富裕層がいま注目している<br />プライベートバンクの上手な使い方

 富裕層と接する機会が多いファイナンシャル・プランナーや会計士によると、従来型の「お金持ち」の金融機関に対するニーズは、保有する不動産の有効活用と相続税の節税対策が中心だった。そのため金融機関は、不動産を活用した相続税の圧縮や、資産管理会社を活用した自社株の移動や評価の圧縮、生命保険を利用した資産承継などの方法で応えてきた。

 専門職の成功者やニューリッチ、外資系企業の役員たちの関心は、資産を守りながら殖やすこと。事業の成長と次世代に承継するためのサポート、次世代の育成に関するより具体的な解決策を求める傾向があるという。

 低金利が続くいま、日本円の預貯金だけでは資産を殖やすことが難しいことに不安を感じている富裕層も多い。

 そうしたなかで注目を集めているのが、富裕層に特化した「ウェルス・マネジメント」もしくは「プライベートバンク」と呼ばれるサービスだ。しかし鉄壁の守秘義務に守られていることもあり、どんなサービスが提供されているかを具体的に知ることは、なかなかできない。

 この記事を執筆するにあたり、ある外資系のプライベートバンクに取材する機会を得た。どのようなサービスを提供しているのか、その一端を紹介しよう。

プライベートバンキング
日本の問題点とは

 今回取材したプライベートバンクが提供するサービスの最大の特長は、一人の専任担当者が長期間にわたって顧客を担当し、サポートすることにある。

「お父様の担当としてお付き合いを始め、いまでは事業を受け継いだご子息の個人資産の管理はもとより、ビジネス上の悩みについて相談を受けているお客様もいます」(専任担当者)

 日本の金融機関にもプライベートバンキング業務を行っているところがある。日本証券アナリスト協会でも「プライベートバンカー資格」を創設。2013年6月から資格試験を実施するなど、各金融機関が力を入れている分野でもある。だが、サービス利用者の一人は不満を口にする。

「日本の金融機関では、担当者といい関係を築けていても数年で異動してしまう。そのたびに新しい担当者と関係性を構築しなければならない。前任の担当者とのやり取りが伝わっていないこともある」

 事業が分業化され、不動産は不動産の担当者、金融商品は金融商品の担当者と、分野ごとに担当者が異なることの煩わしさもあるようだ。

 人は信頼できる相手にしか、真実を語れない。資産や家族の話は、その最たるもの。いずれ関係が終わる担当者では、腹を割って話すことを躊躇せざるをえないのは当然のことだろう。

 富裕層のためだけにサービスを展開する外資系プライベートバンクでは、原則として専任担当者には異動や転勤がない。顧客から申し出がない限り一人の担当者が担当し続け、相談とすべての資産運用に関する取引の窓口となる。それが顧客との信頼関係の構築にもつながるようだ。