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元駐韓大使・武藤正敏の「韓国ウォッチ」

慰安婦像を巡る韓国の市民活動は民主主義を逸脱している

武藤正敏 [元・在韓国特命全権大使]
【第16回】 2017年1月11日
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 ここでいう大使の一時帰国は、大使の召還とは違う。大使の召還は将来の外交関係の断絶も辞さない強い措置である。他方、大使の一時帰国は相手国政府に対する抗議と今後の対応について本国政府と協議することが主たる目的となろう。しかし、単なる外務省×大使館を通じた抗議とは違い、格段に強い措置であり、国民の注目度も違ってくる。

 この4項目の措置を聞いた韓国の外交部は6日午後、長官(大臣)が長嶺大使を外務省に招致し、日本の対抗措置に対して遺憾の意を伝えた。これは、韓国政府が日韓関係の悪化について、深刻に受け止めている表れである。外相と大使は、日韓慰安婦合意を徹底的に履行していく立場を改めて確認し、両政府の信頼関係を基礎に、日韓関係を引き続き発展させて行くべきという認識で一致したということである。また、企画財政省も同日、「政治外交的な原因で韓日スワップ協議を中断するのは遺憾だ。経済金融協力を維持することが望ましい」とコメントした。

 反面、朴大統領の職務停止によって国政の主導権を握る野党勢力は、慰安婦問題を巡る日韓合意の再交渉を求めている。最大野党「共に民主党」の前代表であり次期大統領の有力候補である文在寅氏は今月15日、「日本の法的責任と公式謝罪を明確にすべきだ」と指摘し、合意を認めない姿勢を示した。

 こうした中で日本政府が取った措置の内容は予想外に厳しいものであり、結果として日韓関係は一層冷え込むことになりかねない。にもかかわらず、韓国の最大野党「共に民主党」は相変わらず、「わずかな真心のこもった謝罪もすることなく、自らの正当性ばかり主張する日本政府は、人権と世界正義と争うつもりか」と日本側を非難し、日韓の慰安婦合意の破棄と日本政府の謝罪を要求したという。

 しかし、日本政府の措置は、日韓の慰安婦合意の内容は再交渉する余地がなく、それを誠実に履行する以外ないことを意味していることを「共に民主党」などの野党は全く理解していない。これまで、日本政府は日韓関係の安定化のため多くの韓国側の一方的な要求に甘んじてきた側面がある。だが、慰安婦に関する日韓合意は幾度にもわたる紆余曲折を経て実現したものである。それが、韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)を中心とする政治活動家の要求で日本政府が屈することはないということである。

釜山総領事館前の少女像設置は
孤立した挺対協の焦燥感の表れか

 そもそも、挺対協は元慰安婦の声を代弁しているとは言い難い。韓国政府が、日本政府と合意して設置し、日本政府が10億円を拠出した「和解・癒し財団」は昨年12月23日、初めてマスコミ向けに発表文を出した。それによれば、現在の生存者39人(合意時点では46人)に対し34人が支援金を受け取る意思を表明し、その中には挺対協と行動を共にする「ナヌムの家」の支援を受ける元慰安婦が5人含まれていることも明らかにしたとのことである。すなわち、多くの元慰安婦は今般の日韓慰安婦合意を受け入れており、挺対協とともに日韓合意を批判しているのは、ごく一部の少数派である。この問題は既に決着しているのである。

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武藤正敏 [元・在韓国特命全権大使]

むとう・まさとし 1948年生まれ、1972年横浜国立大学経済学部卒業。同年、外務省入省。在ホノルル総領事(2002年)、在クウェート特命全権大使(07年)を経て10年より在大韓民国特命全権大使。12年に退任。著書に「日韓対立の真相」、「韓国の大誤算」(いずれも悟空出版)。


元駐韓大使・武藤正敏の「韓国ウォッチ」

冷え込んだままの日韓関係。だが両国の国民は、互いの実像をよく知らないまま、悪感情を募らせているのが実態だ。今後どのような関係を築くにせよ、重要なのは冷静で客観的な視点である。韓国をよく知る筆者が、外交から政治、経済、社会まで、その内側を考察する。

「元駐韓大使・武藤正敏の「韓国ウォッチ」」

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