経営×経理

武田 現状を考えると、エクセルシートです。できる限りシンプルで、誰でも数字を打ち込めて、誰が見ても意味がわかるシートを作る。そのエクセルシートの作成も、クラウド会計に置き換わる時代がくるはずです。

河江 なるほど、「ベルトコンベア」や「マクドナルド化」という武田さんの提案に対して、クライアントはどういう反応をされますか?

武田 セミナーなどでこの話をすると、ベテランの部長クラスの人から反発を受けることがあります。「あなたはうちの経理部員を弁当工場の作業員にしたいのか」と。私の趣旨は逆で、人を育てることにあります。「価値のある仕事」を経験しないと、人は育たないからです。たとえば、フレンチ店の一流シェフが仕事を属人化させて、見習いに仕事を振らなければ、その見習いはいつまでたっても成長しません。仕事を標準化しないと人も会社も成長はないのです。だから、業務のマクドナルド化によって生まれた時間で、経理部員に付加価値の高い仕事を経験してもらい、そのなかから、全員ではないにしても、芽の出た人を育て上げるのが部長の仕事だと伝えています。そうしないとモチベーションは上がりませんよ。

河江 経営者はもちろん、経理部長の意識が変わることが、クラウド会計導入のカギになりそうですね。

税務調査・税金対策にも
クラウド会計が効果を発揮する

河江 税務調査でも「情報の倉庫業」と「情報の製造業」では倉庫業のほうが指摘を受けるケースが多いように思います。

武田 そうですね。「つっこみどころ満載」な決算書が少なくありません。

河江 たとえば、明らかにわかっている損失計上すらタイムリーになされていないケースをよく見受けます。

武田 それも、経営者と経理が分断されているところに原因があると思います。

河江 節約せねばと、決算期末ギリギリになってあわてて消耗品を購入するような会社もありますね。経営者が数字をリアルタイムに認識していれば、そんな場当たり的な節税策ではなく、もっと有意義な投資で節税策を打てるでしょうにと思ったりしますが。

武田 その通りです。決算の仕組みづくりや早期化は、そういう意味でもメリットがあります。

河江 タックスプランニングの面からも、武田先生のお話は説得力があるように思いました。経理部を倉庫業から製造業、さらにサービス業へ進化させることは、これからの会社が生き残るための必須条件だと言えますね。

武田 クラウド会計は近い将来、すべての会社が導入するはずです。いまはスペック的に中小企業に限られていますが、他の機器と繋がずに機能するスタンドアローン型の会計ソフトが消滅することは間違いなく、クラウド会計の進化とともに、3年もすれば企業の経理の仕事は大きく変わることになるでしょう。企業や我々会計事務所も、乗り遅れないようにしなければなりません。

 クラウド会計は、経理を効率化して情報の「倉庫業」から「製造業」に変化するきっかけになり得る。効率化で空いた人手と時間は付加価値ある情報を経営に伝える「製造業」、「サービス業」に進化する人材を育てる機会に繋がるのだ。そうすることで従来のコスト削減が主題だった経理部は、ビジネスの機会を見つけ、経営にとって必須の「真の経理部」に生まれ変わる。

Special Columns

土井貴達 どい たかみち

1973年生まれ。関西大学商学部卒。公認会計士・税理士。 土井公認会計士・税理士事務所代表。2012年に大手監査法人金融部を退所し、独立。 監査法人勤務時代に実施していた取引先企業への貸付金、有価証券の査定業務に係る監査、 コンサルティング業務などを通じてあらゆる業種に精通。 独立後も、企業融資のサポートを得意としている。 独立直後からクラウド会計の導入を始め、クライアント企業への導入サポートは数十社に及ぶ。

米津良治 よねづ りょうじ

1983年生まれ。上智大学法学部卒。税理士。税理士法人ファーサイト・パートナー。上場企業にてIR職、経理職等を経て現職。企業勤務時代に社内横断の業務プロセス改善プロジェクトの中心メンバーとして活動したことをきっかけに、業務効率化にこだわりを持つ。早くからクラウド会計の優位性に着目し、研究を開始。わずか1年で30社以上のクライアントにクラウド会計を導入した実績を持つ。

河江健史 かわえ けんじ

1979年生まれ。早稲田大学商学部卒。公認会計士。河江健史会計事務所代表、FYI株式会社代表取締役。 監査法人、証券取引等監視委員会等での勤務を経て現職。 「クラウド会計は人材不足に悩む中小企業の救世主」という思いのもと、クライアントへの導入を進める。 主な共著に『リスクマネジメントとしての内部通報制度:通報窓口担当者のための実務Q&A』(税務経理協会)、 『国税庁「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組み」徹底対応 税務コンプライアンスの実務』(清文社)、 『インドネシアのことがマンガで3時間でわかる本』(明日香出版社)などがある。


「クラウド会計」は経営の生産性をどれだけ上げるのか?

2012年頃に登場し、わずか5年で100万社以上の企業が導入している「クラウド会計」。GmailやDropboxがあたりまえのようにビジネスの現場に普及しているように、今後、会計・請求・給与・経費精算などのバックオフィス系だけでなく、 顧客管理や在庫管理などあらゆる経営リソースがクラウド化していくことは間違いないと見られている。本連載では、クラウド会計をどう活用するか、企業の事例を中心に『会計事務所と会社の経理がクラウド会計を使いこなす本』(ダイヤモンド社)の著者の3人の税理士がインタビュアーとなって紹介する。

「「クラウド会計」は経営の生産性をどれだけ上げるのか?」

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