まだ六本木ヒルズができる前のこと。こんな小話があった。

 憧れの六本木に初めてやってきた人が、高速道路が頭上を覆う六本木の交差点に立って聞きました。「あのー。六本木はどこですか」――。

「人は見た目が9割」ではないが、商店街にも見た目の「らしさ」は大切だ。ただ当然のことながら、中身に応じてあるべき「らしさ」の姿は変わる。時代を先取り、変化を続ける港区に、商店街らしさの最前線を探しに行こう。

総小売販売額は都心に比べて格段に低い
飲食店抜きに語れない港区の商業とは?

 都心・副都心の商業集積には、1つのパターンがある。百貨店に代表される大型店が中心になって、商業の集積が作られるという形だ。その百貨店が港区にはない。

 大型店の位置付けも、他の都心・副都心区に比べて格段に低い。総小売販売額に占める大型店販売額の割合は、豊島、新宿、中央、渋谷、千代田の各区がベスト5に名を連ねるなかで、港区はデータが公表されている21区中、下から2番目の低さである。

 そもそも港区には、小売業の大集積地がない。23区の商業集積地区別小売販売額は、1位の新宿駅東口以下16位までの全てを、港区を除く都心・副都心5区が占める。このランキングに港区が最初に顔を出すのは、青山通り・表参道の26位。ちなみに、新橋駅西口は39位、品川駅西口は45位、お台場が78位。赤坂・一ツ木と六本木に至っては、90位台である。

港区の商店街――ブランド地域の「歴史の厚み」がもたらす、都心には見られない商業トレンド

 ただし、このデータには港区を代表する業種が入っていない。飲食店だ。飲食店数は23区中1位で、その過去5年間の増加率も1位となっている。食事主体の一般飲食店は、店舗数、増加率ともダントツの1位。飲酒メインの遊興飲食店は、店舗数こそ銀座の中央区、歌舞伎町の新宿区をわずかに下回るものの、増加率はやはり1位である。