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日本人が知らない本当の世界経済の授業
【第21回】 2017年3月9日
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松村嘉浩

ビットコインは、
「貨幣」にはなれない(前篇)
「貨幣」が持つ3つの機能とは

ビットコインに関連するニュースを毎日聞くようになりました。読者の皆さんの中にも、投資の対象として関心を持つ方も少なくないでしょう。しかし、国債のプロとして長年“貨幣”の本質を考えてきた松村嘉浩氏は、その盛り上がりに警鐘を鳴らします。松村氏の著作、『なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?』に登場するキャラクター、絵玲奈とその指導教授に、ビットコインと“貨幣”の違いを教えてもらいましょう。

大学生も投資を始めたビットコイン

絵玲奈と沙織は街にショッピングに来て、その帰りに晩ごはんを一緒に食べた。

 「今日は、わたしが奢ってあげる」
沙織は上機嫌で言った。

 「まじで! どうしちゃったの?」
いつもは、1円単位で割り勘するきっちり派の沙織が突然、柄にもないことをいったので絵玲奈は驚いた。

 「実は、ビットコインで大儲けしちゃったんだよね~」
と言いながら沙織はクレジットカードを出す。

それ以来、絵玲奈の頭からビットコインという言葉が離れなくなった。

沙織にいろいろ訊いたけれど、よくわかっていないようで、
「まあ、習うより慣れろっていうでしょ」
と適当なことしか言わない。

ネットで調べても、“仮想通貨”だということ以外はいまいちよくわからなかった。

というわけで、またゼミで教授に聞いてみることにした。サブカルネタよりも経済っぽいネタだから、きっと嫌だとは言わないだろう。

 「教授、ビットコインって儲かるんですか?」

 「え……なんのことですか?」
唐突な質問に教授は驚いた。

 「実は沙織が儲かったみたいで、奢ってくれたんです。ビットコインで!」

 「あ~、たしかに値上がりしてますからね~」

 「まだまだ、上がるんですか!?」
絵玲奈は勢い込んで聞いた。

 「いや、そういう相場のことを聞かれてもわかりませんよ。でも、あなたのような素人が注目するときは、だいたい相場は終わりに近いと思いますけどね。『人の行く裏道に道あり花の山』ということわざがあるくらいですから」

 「なんですかそれ?」

 「人気のないところにこそ、良いものがあるってことですよ。みんなが良いと思うものはもうすでに高すぎるのでリスク・リワードにあわないってことですね。まあ、相場のことなのでどうなるかわかりませんが」

 「えー、そうなんですか? 沙織、大丈夫かな……。でも、そもそもビットコインって何なんですか? 本とか読んだけどよくわからないんです」

 「困りましたね。いいかげん経済学の授業を前に進めたいんですが……」

 「でも、仮想通貨のことをちゃんと理解しておきたいんです! 沙織がよくわかんないのにビットコインをやっていて心配なんです!」

 「わ、わかりました。そうですね。いままでやってきた『貨幣』の議論を復習できる良い素材でもあるので、少し議論してみましょうか」

 「やったー! ありがとうございます!」

貨幣の3つの機能

 「『貨幣』の話って、何度聞いてもむずかしくて混乱しちゃうんです」

 「まあ、偉い経済学者の先生でも混乱しているぐらいですから仕方ない部分はありますが、今度こそちゃんと理解しましょうね」

 「がんばります」

 「では始めましょう。そもそもビットコインは『貨幣』なのでしょうか?」

 「コインって言うぐらいだから、『貨幣』なんですよね?」

 「そう思っている人はたくさんいるようですね。では復習です。『貨幣』の3つの機能ってなんでしたっけ?」

 「1.価値尺度2.交換の媒体3.価値の保存、ですよね」。
 絵玲奈は『貨幣』の話を振る以上、最低限の復習をして準備していた。

 「そのとおりです。ちゃんと覚えていて、すごいじゃないですか。貨幣はこの3つの機能をそろえて持つ必要があるのです。
 ビットコインに関して疑問があるのは、3.価値の保存の機能を持つのか?という点です。そのために、“ビットコインは貨幣ではない”と私は考えています」

 「マジですか? コインって言ってるのに?」

 「はい、マジです。まず、ビットコインはどうすれば手に入るのでしょうね」

 「え~と、マイニングがなんとかってどっかに書いてありました」

 「そう、マイニング。つまり採掘ですね。その過程をカンタンに説明しましょう。ビットコインは、一定期間ごとに、すべての取引の記録を取引台帳に追加して書き加えていきます。その処理には、これまでの取引台帳のデータと、追加した対象期間に発生したすべての取引のデータの整合性を取って、正確に記録する必要があります。要は偽造されないようにするためです。ここまではわかりますね?」

 「はい、大丈夫です」

 「データの整合性を検証する作業には、コンピュータによる膨大な計算が必要になるのですが、その労力をはらい、結果として追記処理を成功させた人には、見返りとしてビットコインが支払われるというわけです。これがマイニング(採掘)です」

 「つまり、汗水たらしてがんばって掘り出したということですね」

 「そうですね。追記作業を手伝って、ビットコイン全体が健全に運用されるよう努力してくれたことへの報酬として、ビットコインが支払われるわけです。それがまるで金を掘り出すようなので、ビットコインのことを“デジタル・ゴールド”と言う人もいます」

 「なるほど。じゃあそののまま、ビットコインは金の電子版だって考えちゃダメなんですか?」

 「たしかにビットコインは発行総量が決まっていて、まるで金と同じように限られた埋蔵量で希少性が担保されています。ですから、金をデジタル化するイメージで設計されていると言っていいでしょう」

 「へぇ!」

 「しかしながら、金にはほとんどの人類が“価値がある”と思う、自然物の実体が存在します。そして物質としてきわめて安定していて、魚のように腐ったりしませんからその価値が保存されます。
 ビットコインはどうでしょうか? ビットコインは人工的なビットコインの世界のなかで生み出された“価値”ですから、果たして人類が共有する価値となりえるのか? というところに大いに疑問があります」

ビットコインは聖剣エクスカリバー

 「なるほど、整理できてきました。私がちょっとコワがっているのは、ビットコインに“価値”があるんだかないんだか、よくわからないからなんですね」

 「コンピュータパワーや電気代を大量に投入して、時間を費やしてがんばって得たものですから、なんらかの価値はあるのは事実でしょう。でも、問題はみんながそう思うかどうかなのです。ビットコインはたとえて言えば、時間と労力を費やしてゲームで勝って得たレア・アイテムのようなものです」

 「RPGに出てくる伝説の聖剣、エクスカリバーみたいなものってことですか?」

 「そうですね。RPGの参加者たちにとっては、レア・アイテムである聖剣エクスカリバーはものすごく価値があるので、おカネを払ってでもほしい人はいるかもしれません。でも、そのゲームを知らない人にとっては無価値です」

 「エクスカリバーで、八百屋さんから大根を買うのは無理ってことですね」

 「八百屋さんがRPGゲームの熱狂的なファンでない限り無理でしょうね(笑)。でも、RPGゲームもビットコインも、実際のお金のような、そこまでの広がりを持つことは決してないと思います。その本質的な理由は、次の授業でお話ししましょう」

※後篇はこちら

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松村嘉浩(まつむら・よしひろ)

1989年神戸大学経済学部経済学科卒(数理経済学専攻)。
1989年にゴールドマン・サックス証券に入社し、メリルリンチ証券を経て、1996年にドイツ証券に入社。
ドイツ証券で円債トレーディング部長を務めた後、バークレーズ・キャピタルに移籍し2011年に引退。
主に円債トレーディングおよび自己勘定トレーディングに従事。
2015年に今回の新著の前半部分となる『なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?』を発表し、話題を呼んだ。


日本人が知らない本当の世界経済の授業

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