「入院患者はもちろん手や足がない方ばかりで、ネガティブな人が多かった印象です。『みんな、なぜそんなに悲観的になるんだろう』『そう思うんだったら、もっとこうすればいいのに』と、反面教師的にポジティブな発想になりました」

 困ったことと言えば、「髪の毛が結べないことくらい」で、意外にも不便は少なかった。

「最初は、『これ、どうやってやろう』なんて悩むこともありましたが、やれば意外とできるものでして。私、料理が趣味なんですけど、当初は『どうやって鍋を持てばいいのか』『どうやって切った野菜を押さえようか』と考えたけど、やればできましたしね」

趣味のコスプレを再開
その時の「悩み」とは

 入院中は友人も見舞いに来たが、事故前後で、付き合い方にまったく変化はなかった。琴音さんのやることに手を貸すことはせず、「手伝ってほしい」とお願いして初めて、友人たちは手を貸した。彼女らとは今でも、心地良い友人関係が続いているという。

 晴れて退院したのは17歳。高校には戻らなかった。

 一方、事故前からの趣味であった、コスプレを再開しようと思ったはいいが、ここで初めて“悩み”が生じたという。それは、「人に見られることへの躊躇だろうか」との筆者の問いに、琴音さんの答えは、実に「あっけらかん」としたものだった。

「コスプレって、キャラクターになりきるためにするものじゃないですか。私が好きなキャラは、手があるんですよね。でも、私はない。『どうしよう、手がなくても、手があるキャラのコスプレをしていいのかな?』と悩んだんです。それをコスプレサイトの掲示板に投稿すると、『個性的でいいんじゃない?』とレスがつき、安心しました」

 “悩み”が解消されると、義手をつけ、コスプレイベントに参加したり、コスプレサイトに写真をアップするなど、趣味を謳歌した。誰も琴音さんが義手だとは気づかなかった。

 本音は、「手がないキャラのコスプレをできたら一番いい」とは思うものの、「そのキャラを私が好きになって、コスプレしたいと思うかは別なので。そんなに都合のいい話はないですよね。だって『コブラ』※とかやりたくないですもん」と、琴音さんは笑う。

※左腕が特殊な銃となっている、宇宙海賊として活躍する寺沢武一原作のSFアニメの主人公