今年の秋ごろから復興投資が増加するが、そこで懸念されるのは、金利の上昇である。

 金利の上昇とは、国債価格の下落である。日本の金融機関は膨大な量の国債を保有しているので、その価格の下落は、大問題だ。個別企業に対する貸付の不良債権化とは比べものにならない大きな影響を金融機関に与える。これは、1990年代の前半に生じた不良債権問題より大きなインパクトを日本経済に与える可能性がある。

 しかし、「そうした事態は生じない」という意見が多い。その論拠として言われているのは、つぎの2点だ。

 第1は、「これまで、大量の国債発行が続いたにもかかわらず、それらは順調に消化されてきた。長期金利も上昇することはなかった。国債暴落をあてこんで外国のヘッジファンドが投機を仕掛けたが、すべて失敗した。だから、今後も大丈夫だろう」というものだ。

 第2は、「仮に資金需要が増加するにしても、企業は多額の余裕資金を持っている。また、政府も株式などの金融資産を保有している。それで復興資金も賄えるし、国債の消化にも支障は出ない」というものである。

 しかし、これらの議論は、いずれも誤りである。その理由を以下に述べよう。

これまでの国債消化の
メカニズムが働かなくなった

 まず、第1点について見よう。

 これまでは、確かに国債の消化は順調に進んできた。ただし、重要なのは、「なぜ順調に進んだのか?」ということだ。

 過去10年間程度について言えば、その答えは、「企業の資金需要がなかったから」だ。したがって、金融機関は、企業に対する貸出を減らし、その代わりに国債を購入したのである(注1)

 企業の資金需要がなかったので、国債が増発されても、資金需給がタイトになることはなかった。だから、金利も上昇しなかった。このプロセスは、今後10年間程度は継続できると考えてよかった。

 しかし、東日本大震災で条件が一変してしまったのである。そして、今後は、このメカニズムが働かなくなった。なぜなら、復興投資が生じるからだ。企業、家計、政府のいずれのセクターでも資金需要が増大するので、これまでのように、「金融機関が対企業貸出を減らすことで国債を購入する」というメカニズムが働かなくなってしまうのである。

 投資増加がどの程度の規模になるかは、震災による損害をどの程度のスピードで復旧させるかに依存する。しかし、投資が従来より1割程度増加する可能性が高い。これは、かなり顕著な増加である。

(注1)詳しくは、拙著『大震災後の日本経済』、第4章を参照。