リーマンショックを発端とした大不況によって下落し続けていた住宅価格が、ようやく底打ちし始めていた頃、大震災が東日本を襲った。住宅購入を考えていた多くの人が、検討を振り出しに戻したのではないだろうか。これから東海・南海・東南海地震や首都直下型地震の発生も懸念される今、我々はどのように安心・安全な住宅を選んでいけばよいのか。不動産分析の第一人者である石澤卓志・みずほ証券チーフ不動産アナリストに「震災後の首都圏住宅事情」と、「地震から身を守る物件選びの方法」について徹底解説してもらう。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)

賃貸物件の需要は復旧・復興で増加
売買は“安全な土地”へ需要がシフト

――大不況で下落し続けていた住宅価格がようやく底打ちをし始めていた頃、大震災が東日本を襲った。この震災によって、住宅市場にはどのような変化が起きているか。

いしざわ・たかし/みずほ証券金融市場グループ金融市場調査部チーフ不動産アナリスト。慶応義塾大学卒業後、1981年日本長期信用銀行に入行。長銀総合研究所主任研究員、第一勧銀総合研究所上席主任研究員を経て、2001年より現職。国土交通省、通産省、経団連などの委員や、国連開発機構技術顧問、上海国際金融学院客員教授などを歴任。精緻な分析に定評がある。

 当初は、販売がかなり減速すると思われていたが、実際は危惧していたほどではなさそうだ。3月下旬、帝国データバンクが「震災が自社に与える影響」について調査した結果によると、不動産業の61.8%が「需要減」と予測。しかし現在、被災地では復旧・復興支援のための人員受け入れや、被災地以外でも安全な場所に事業や人員をシフトさせるための需要が起きている。

 そうした需要を背景に、東京圏の賃貸マンション等の稼働率は好調に推移し、大阪では原発事故などの影響で東京圏から関西圏へ避難した人によってマンスリーマンションが埋まっている状態だ。また、被災地の仙台では多くの建物等が被害を受けたもののオフィスビル等の倒壊事例はなく、復旧関係の人員受け入れが必要になったために、仙台市内のオフィスビルやホテルの稼働率が上昇している。例えば、森トラストが持つ仙台MTビルや仙台トラストタワーの稼働率は震災前の50%~70%程度から震災後には20%程度上昇した。

 そのような点からも、今回の震災によって賃貸オフィスビル、マンションに関しては、一時的かもしれないが震災関連の需要が増加しているといえる。

 しかし一方の不動産売買では、やはり減速感が否めない。東日本の不動産流通機構である東日本レインズのデータによれば、3月の中古マンション成約件数は東京圏(一都三県)で前年同月比19.2%減。県別では東京都17.5%減、神奈川県16.6%減、埼玉県17.2%減とおおよそ17%のマイナスとなったが、埋立地の液状化被害が大々的に報じられた千葉県では31.7%減と昨年からの落差が大きかった。