ルペン氏をナチス同様の
「極右」として警戒するメディアも
本原稿を執筆している時点で、フランス大統領選挙は、ルペン氏とマクロン氏の決選投票となり、その行方が注目されている。EUの主要加盟国であるフランスの大統領選なので注目が集まるのは当然だが、今回の注目度は段違いに高い。
その理由はもちろん、ルペン氏にある。父親が結成した政党「国民戦線」を受け継ぎ、急速に支持を伸ばしてきた。「国民戦線」は結成当初は、ナチスによるホロコーストを否定し、反ユダヤ主義を標榜するなど、過激な国家主義思想を押し出していた。
だが、ルペン氏が党首になると、その父親を党から除籍し、父親とは異なった「現実的な」路線を打ち出すようになった。例えば、反ユダヤ主義をやめ、「フランスの価値観を否定する」移民、とくにイスラム原理主義の移民の排斥を前面に押し出したり、父が否定していた同性愛を肯定したりといった、従来よりも「柔軟」な姿勢を見せている。
しかし、多くのメディアが指摘しているのは、ソフト路線への転換は見せているものの、その根幹思想は結成当初と変わっていない点だ。ターゲットをユダヤ人からイスラム原理主義に変えてはいるが、移民排斥の基本方針は変わらないし、EU反対の姿勢も変わらない。経済政策については、むしろどちらかといえば自由貿易推進派だった父親とは逆に、保護主義的な方向へ舵を切っている。
そして、当然ながら、この動きを第2次世界大戦前夜のドイツにおけるナチス台頭になぞらえる人々もおり、彼らをナチス同様の「極右」として警戒するメディアも多い。ただ、ルペン氏は特に若い世代から人気があり、そのためか、ネット上ではルペン氏支持者が優勢なように見える。
メディアは、「人々は、なぜこれほど危険な思想を持つ指導者を支持するのか」という論調で報道している。
第2次世界大戦後、多くの社会科学者は同じ問題意識をもって研究していた。そのなかで心理学的な金字塔ともいえるのが、エーリッヒ・フロムの著した『自由からの逃走』である。
フロムは、ナチスドイツの迫害を逃れて米国へ亡命した欧州の学者集団の作った「フランクフルト学派」の1人だった。彼を含め、多くの社会科学者がナチスドイツの勃興を研究対象としたのは自然のことだったろう。