一方で、世界の農薬市場で最大の約20%のシェアを有するシンジェンタは、潜在的に大きな成長が期待できる中国市場で“インサイダー”となって、中国の食糧安全保障問題の解決に積極関与することで、事業の成長・拡大を見込んでいます。これは、株主や従業員など、すべてのステークホルダー(利害関係者)の利益になる。

 仮にモンサントからの買収提案が実現していたとすれば、必然的に事業の重複などが発生するため、「1+1が2にならない」ことが分かっていました。加えて、事業に対する考え方などが全く異なる両社の企業文化を無視し、経営指標だけで「1+1は1.5になります」と判断しても、過去からのシンジェンタの長期的な戦略は大きな影響を受けることが目に見えています。スイス本社は、従業員の雇用確保を重視していたので、モンサントの提案を拒否したのだと私は理解しています。

農薬ビジネスは “泥臭い”
われわれも一緒に汗をかく

――世界最大の農薬メーカーとはいえ、シンジェンタは日本では農業関係者以外にはあまり知られていません。社名には、どのような意味があるのですか。

 シンはギリシャ語で、シナジー(相乗効果)やシンセシス(合成)などに使われている言葉で、統合や強化を意味します。ジェンタはラテン語で、人々やコミュニティを意味するジェンスに由来し、人間や個人を表している。シンジェンタとは、「人々をひとつに結びつける」という造語です。世界共通の使命として、“Bringing plant potential to life”を掲げています。日本語では、「植物のちからを暮らしのなかに」と訳します。

――農薬と一口に言っても、実際にはさまざまな種類の薬剤があります。日本法人では、どのような事業を行っているのですか。

まったく新しい食材として日本に登場した「アンジェラ」(ヘタのないミニトマト) 写真提供:シンジェンタ ジャパン

 事業の柱としては、大きく三つあります。

 まず、「農業用の薬剤」。殺虫剤、殺菌剤、除草剤、植物成長調整剤などさまざまな種類があります。次に、「非食用の薬剤」で、ゴルフ場やサッカー競技場の芝生などに使う農薬です。三つ目は「野菜の種子」。トマト、レタス、白菜、大根など業務用の種子を販売しています。消費者の方々にとって最も身近な例としては、JA全農さんと共同で開発した「アンジェレ」(へたのないミニトマト)があります。このトマトは、スペインやイタリアで人気が高いスナック感覚で食べられる新しい食材で、現在では複数のスーパーで売られています。ドーム型のプラスチック・ケースに入ったミニトマト以外にも、欧州の珍しい野菜を日本の消費者に対して提案する活動を続けています。