いまや、データや情報を収集・分析し、活用するのは常識である。したがって、そこには明らかに企業格差が見られる。高業績を持続している企業は、この能力に優れていることが多い。事実、アマゾン、キャピタル・ワン、P&Gなどは、経営陣の強力な後押しの下、組織的に分析力の向上に努めている。これらの企業は「分析力で勝負する企業」(analytic competitor)と呼ばれ、他社がとうてい真似できない統計スキルを組織として習得しており、いまなお不断の投資と学習を続けている。
分析力は競争優位の源泉
キラー・アプリケーションの威力は、だれもが知るところである。これまで、アメリカン航空の電子予約システム、オーチス(エレベーター製造)の予測メインテナンス・システム、アメリカン・ホスピタル・サプライのオンライン受注システムなど、革命的なアプリケーションが登場しては、これらの企業の売上げとブランドを飛躍的に高めてきた。
Thomas H. Davenport
マサチューセッツ州バブソンパークにあるバブソン大学教授。ITマネジメントが専門。バブソン・エグゼクティブ・エデュケーションのリサーチ担当ディレクター、およびアクセンチュア特別研究員を務める。最新著書にThinking for a Living, Harvard Business School Press, 2005.がある。
これら先端的なアプリケーションは、他社にすれば垂涎の的であり、データの蓄積と活用を通じて顧客の意識に影響を及ぼしたばかりか、従来を大きく上回る水準へと業務の最適化を推し進めた。ITは、単なるツールから戦略的な武器へと昇華したといえる。
キラー・アプリケーションを開発するに当たって、競争優位が最も期待できそうな分野を1つ選び、そこに全エネルギーを傾ける企業が多い。ところが、新しいタイプの企業はより高い次元を狙っている。
アマゾン・ドットコム、ハラーズ・エンタテインメント、キャピタル・ワン、ボストン・レッドソックスといった組織が成功を収めているのは、業界屈指の分析力を幅広い分野で活用しているからだ。一言で言えば、これらの企業は組織そのものを「キラー・アプリケーションの集合体」へと変容させることで、勝利への道を切り拓いてきたといえる。
みんな分析力を高めようと、しのぎを削っている。今日の産業界は、膨大なデータに恵まれ、「データ・クランチャー」(優れたデータ処理能力が売りのコンピュータやソフトウエア)も多いため、分析力を高めることは難しくはない。ただし分析力の強化は、それが可能だからではなく、時代の要請なのだ。
現在、たいていの業界の大半の企業が似たような技術を用いて、似たような製品を提供している。それゆえ、差別化のポイントとして残されているのが、まさしくビジネスプロセスなのだ。「分析力で勝負する企業」(analytic competitor)は、ビジネスプロセスの価値を最後の一滴までしぼり取ろうという姿勢である。